2003年を振り返って

 留学してきて1年4ヶ月ほどが経った。2003年は、留学後の適応の時期を終えて、新しいことを始めようと試行錯誤してきた1年だった。年の初めにやりたいなと考えていたことは、大方達成できて、新しいことを始める萌芽が見えてきた気がする。しかし、すべてが順調というわけでもない。今年一年の方針を考えるためにも、少しここまでの経過を振り返ってみることにする。
・博士課程に移り、コースワークを順調に消化
 2003年初めに博士課程に移り、大学院在籍期間を2年から5年に延長。移籍手続きはスムーズにでき、10月のCandidacy Examも問題なくパスできた。コースワークもこれまでに10コース終えて、今のところは計画通りに進んでいる。2年目に入って、授業で理解できることがだいぶ増えたと同時に、最初はいかにわかっていなかったかを痛感した。クラス討論で意見をまともに聞いてもらえるようになった。これまでに受けたコースの講師からはよい評価を得た。10月にはAECTのカンファレンスに初参加して、研究分野での知見を広げることができた。
・大学の仕事を経験
 昨年中盤は、アシスタントのポジションを確保するのにいろいろと苦労した。PHP/MySQLデータベースメンテナンスの短期アシスタントや、教育政策研究科のホームページ更新といった小さい仕事をこなした後、10月からペンシルバニア州のK-12教員向けの認定プログラムのアシスタントとして雇ってもらった。いずれの仕事も、アドバイザーのDr. Peckに世話してもらった。英語力の不足から、他の教員には敬遠されるところを、彼は私をあれこれ引き立ててくれて、ことあるごとに声をかけてくれる。足を向けて眠れない存在とは彼のことだ。
・「ゲーム&シミュレーションによる学習」という研究テーマを得た
 来た時は、漠然と「インストラクショナルデザインを日本でもっと普及させるための研究をやりたい」という考えだったが、いろいろ勉強するうちに、構成主義の学習理論に興味を持つようになり、さらにはケース教材を用いた学習、ゲームやシミュレーション型の教材開発というテーマにたどり着いた。まだ興味を持って調べている程度に過ぎないが、これらの教育方法を発達させることで、退屈な教育を減らして、教育の場をより意味のあるものにするための有効なツールにしていきたいと考えるようになった。
・日本の研究機関からの仕事を受注、完了
 学部在籍時からずっとお世話になっている東大先端研の妹尾堅一郎教授の紹介で、三菱総研から、日本の大学院における技術経営教育プログラム開発のための米国大学院調査の仕事を受注、3ヶ月間の作業期間の後、無事に調査報告書を納品した。以前に日本でもいくつかこの手の仕事をやってきた経験があったので、仕事自体はさほど難しくなかったが、大学院での活動と並行したので苦労した。結果的には調査研究の仕事の幅を広げることができたし、自分の研究を進める上でのヒントを得ることもできたよいプロジェクトだった。妹尾先生は、私にとってのもう一人の足を向けて眠れない存在だ。
・日本のインストラクショナルデザイン研究・実践者とのネットワーク形成
 海上自衛隊の君島さんの紹介で、sigeduというグループのメーリングリストに加えてもらった。日本のID研究の第一人者の鈴木克明教授とも知り合いになるなど、この分野に関心のある日本の人とのつながりができた。
・日本語教育に進出
 夏休みに地元の高校生ベンの日本語の家庭教師を引き受けたのをきっかけに、大学の日本語プログラムで週1回基礎クラスを教えるなど、日本語教育という活動の場を得ることができた。基礎クラスの学生の個人教師や、上級クラスの学生の会話パートナーをやったり、コースのプロジェクトで、日本語プログラムのニーズ調査を行なったりした。プログラムのインストラクターたちともつながりができた。日本語教育にかかわることは年初想定していなかったが、思いがけず活動の選択肢を広げることができた。
・英語力アップ
 大学院で活動するための基礎的な英語力もあやしい状態から、読み書き主体であれば、英語でも日本でやっていたくらいの仕事はできるようになった。英語の文献も小説や新聞程度のないようであればスラスラ読めるようになった。とはいえ、会話力はあまり伸びていないので、意思伝達には相変わらず不自由が伴う。会話力の低さは日本語であっても同じで、英語のせいではない面が大きいので、英語力とともに会話力そのものをあげていかないと、今後もさほど伸びていかない気がする。
・車を手に入れ、免許を取得
 8月に小さな古い車を譲ってもらい、ペンシルバニア州の運転免許を取得した。車の運転は不得意な方で、最初はあまり楽しくものなかったが、近所の運転くらいは気楽にいけるようになった。普通はたいしたことでもないのだろうが、車の不要な首都圏で10年生活し、車の運転に関してはまったく能力が開発されてなかった身には、けっこうな挑戦だった。
・あちこち見聞
 夏休みのノースカロライナのサウスポート旅行、10月のカリフォルニア学会旅行、サンクスギビングのニューヨークドライブ旅行など、アメリカ内をあちこち見て回る機会があった。いずれも楽しく、忘れられない経験となった。