ゲームを使った学習支援(1)ゲームのチュートリアル

昔、自分が無邪気なゲーマーだった幼少期(小5~中3)は考えもしなかったが、今の自分の主要な研究関心は、「ゲームを使って学習する、という営みが、形骸化した学校教育や社会人教育を変えていく上でかなり強力なツールになるのではないか」ということだ。同じ意味でマンガやテレビも捉えることはできるが、双方向性があるというの点でゲームはそれらよりも有効なので、特にゲームに着目している。
実際、そういうことを研究している研究者は日本にもいて、シミュレーション&ゲーミング学会という学会を中心に活動しているらしい。ゲーム業界の人たちも参加しているようだが、コンピュータゲームをばりばりと学習活動に使う研究よりは、シミュレーションやゲーミングそのものの原理を研究したり、カードゲームや研修ゲームなどの研究の方が中心になっているように見える(ちゃんと調べたらそうじゃないのかもしれないが)。コンピュータゲームを教育現場に持ち込んで活用する研究は、アメリカではかなり盛んなようだ。この学会の国際版ではコンピュータゲームの研究部会が活発に活動しているようだし、他にいくつも研究団体や大学のリサーチセンターなどがある。
かねてからこの件について、まとめておこうと思いつつ手が回ってなかったのだが、後からどんどんネタが増えてくるし、古いネタは鮮度が下がってしまうので、今回は、自分の今までの知識の整理もかねて、いくつか事例をまとめておくことにした。思いつくままあげるので、順不同。ネタは多いので、しばらく連載になる。ではいってみよう。
まずはゲームのチュートリアルだ。これを初めて体験したときは、結構感動した。
エイジオブエンパイア」「エンパイアアース」等のリアルタイムストラテジーと呼ばれるゲームや、厳密に言うとちょっとジャンルは違うが「ウォークラフトIII」のようなゲームは、たいてい入門レベルのシナリオがチュートリアルになっていて、ステップバイステップで操作をマスターできるようになっている。この手のゲームは、覚えないといけない操作が多く、複雑でマニュアルを読んでも操作が覚えられない。実際、ついてくるマニュアルは操作からシナリオの背景、キャラクターのデータなど細かく書いてあってかなり分厚く、読んでいたらいつまでたってもゲームを始められない。操作を覚えることに時間がかかって楽しめないんでは、ユーザー層を広げる上で敷居が高くなってしまう。そこでなるべくそうした敷居を感じなくてすむように、最初は超簡単なシナリオを用意して、そのシナリオをクリアする間にゲームを楽しめる程度に操作を覚えてもらってから、次のシナリオに進むようなつくりになっている。最初のシナリオは、こちらの目印からこちらの目印に進みなさい、とか、向こうにいる敵を攻撃しろ、といった指示をいちいち細かく与えてくれる。時間もゆっくりかけられるので、飲み込みの悪い人も時間をかけて操作を習得できる。
実は、こういうチュートリアルは輸入物のゲームの方がきちんと作られている。この間XBOXでコナミのメタルギアソリッド2をやったら、チュートリアルモードがなくて、分厚いマニュアル片手に、操作を覚えるまで面倒な思いをした。「ザ・コンビニ」も試してみたが、これもヘルプがマニュアルをデータ化しただけで、全部読む必要があって面倒かった(ザ・コンビニ3はチュートリアルモードがあるらしい)。マニュアルやテキストのヘルプを提供しただけでいいと思っていたら大間違いだ。ゲームを楽しめるようになるまでの時間は、チュートリアルをきちんと用意しているかどうかでずいぶん変わってくる。この学習効率を研究している人もたぶんいるだろうから、いずれ探してみようと思う。
このマニュアル学習と、チュートリアル学習の効率の違い、ゲームの例で見れば一目瞭然だったのだが、実は学校で行なわれている教育は、ほとんどがこのマニュアル学習だ。企業での研修にはOJTなんてのがあって、チュートリアル学習的なものもあるのだけど、ステップバイステップではなく、いきなり現場に放り込んで苦労させるだけ、という場合も結構ある。
教育分野で、このチュートリアル学習的な考え方を持っているのは、Constructivist(構成主義)の研究者たちだ。たとえば、Roger Schankという研究者は、Goal Based Scenariosという手法を開発し、実践のために会社をおこし、数多くの企業や大学の教育コンテンツを開発している。彼の開発したコンテンツでは、あるシナリオの中で実際に問題に直面し、失敗しつつその問題を解決するのに必要なスキルを身につける構造になっていて、ゲームのチュートリアルと共通点が多い。
他にもConstructivistの例を出し始めたらたくさんあるので、それはまたの機会として、今日のところはここまでにしておこう。とにかく、最近のゲームはバカにはできない。これからしばらくゲームについて書く中で、そのバカにできないという認識をみんなと共有したい。