教育専門家の拠点

MLに流れていたお知らせをたどって、何気なくメディア教育開発センター(NIME)のファカルティ・デベロップメント研修のWebサイトをのぞいて見た。短期セミナーが中心だが、結構なラインナップ。日本の高等教育のe-learning展開を引っ張っている印象を受けて、とても好感が持てた。真面目にバリバリ仕事をしている人が中心になっているんだろうなと思って、もうちょっとたどってみたら、助手の中原淳さんのサイトを見て合点がいった。若いのにすごい研究業績だ。こういう人たちが前面に出て仕事をする組織は勢いがにじみ出るということだろう。「オンライン・コースの手法と戦略」担当の吉田文教授は、最近「アメリカ高等教育におけるeラーニング―日本への教訓」という本を出していて、アメリカのオンライン教育動向にも理解が深いようだ。
以前から、日本の教育改革がうまく行かないのは、仕事のできる教育研究者の層の薄さが問題だと感じていた。アメリカはとにかく研究者の数は断然多くて、数をこなしているうちに質の高い人も輩出される、という構造になっている。ドラッカーが「断絶の時代」で述べた、「質の高い人材を出すには、エリート教育ではなくて、ハイレベルの教育を幅広く数多くの人に提供する必要がある」というのを実践している。そのため、修士レベルの教育を受けた専門家を、地方の教育委員会のようなところにもいきわたらせることが可能になる。アメリカの教育は今頃ブッシュが「No Child Left Behind」なんてキャンペーンをやっているように、ダメなところはほんとにダメダメなままほったらかしてきた面もある。しかし、何か教育改革をやろうという時に、お題目だけ唱えるのでなくて、行動レベルの計画を立てて実行できる専門家の層が厚い。かたや日本では、きちんと現場レベルで仕事ができる専門家が少ない上、準専門家的な立場の人の専門性も低い。そのため、政策決定の場でも実証データに基づいて判断されるのではなく、有識者の感覚的な意見の方が尊重されて政策が決められる。そして現場レベルできちんと管理できる専門家がいないために現場が振り回される、というようなことが繰り返されている。教育の専門家として社会に影響力を持っている集団は、自分の知るところでは、佐藤学教授や苅谷剛彦教授らのいる、東大の教育学研究科の教授陣くらいだった。この東大教育学のような教育専門家の拠点が増えていくことが、日本の教育専門家の層を厚くしていくには不可欠だろうと思う。
そういう意味では、このNIMEは一つの教育専門家の拠点となって来ているように見える。ちょっと前まで、このNIMEのWebサイトはなんか垢抜けなくてぱっとしないなと思っていたが、サイトデザインも洗練されて、研究活動も厚みが出てきている様子。ずいぶん日本に帰ったらこういうところで働けたらよいなと思ったりした。