新任教員選考ウィーク

 ペンステートのインストラクショナル・システムズプログラムでは、最近新しい教員を公募していて、今週は最終選考に残った3人の候補者のインタビューとプレゼンテーションがそれぞれ行われた。
 各候補者は、選考委員の教員、学部長、カレッジ長、など主だった人々と面接や会食を重ねつつ、自分の研究について発表する機会を持つ。その発表は大学院生も聴講でき、各自の発表への感想や候補者への印象をアンケートでコメントできる。選考委員はそれらのコメントも選考の判断材料として利用する。選考委員たちは一連の選考過程から得たデータをもとに選考結果を出し、カレッジ長へ推薦を行う。そして選ばれた候補者にオファーが出されてその候補者が受ければ、晴れて採用となる。
 ペンステートのインストラクショナルシステムズプログラムは、全米のこの分野の大学院プログラムの中でもトッププログラムの一つとして認識されていることもあり、最終選考に残った3人の候補者の経歴はそうそうたるもの。みんなトップスクールや、教育工学分野では著名なプロジェクトで働いた経歴を持っている。このうち誰を採用しても当たりという感じなのだが、それぞれに強みや研究の関心が違っている。あとはプログラムの経営判断の問題で、候補者の能力の優劣よりもむしろ、プログラムがどういう方向で発展したいかによって誰を選ぶべきかが決まるだろう。
 今回の教員採用も含め、ペンステートのインストラクショナルシステムズプログラムは、教員の顔ぶれの入れ替わりとともにプログラムの個性が変化しつつある。まず、6年前に学習科学系と目される2名の若手教員を採用した。学部長を務めていたDr. Kyle Peckがカレッジ副学長に出世して経営サイドに回り、昨年は長年活躍してきたDr. Frank Dwyerの引退とともに、ミネソタ大からDr. Simon Hooperが加入した。そして今回再び、学習科学寄りの研究者を採用することになる。(プログラムの教員の顔ぶれ
 現在のプログラムを支える女性教員たちは、MerrillやReigeluthやHannafinやJonassenといった、教育工学分野の重鎮たちから直接指導を受けたり、ともに仕事をしたりしてきた人々だ。それにJonassenは2000年ごろにミズーリ大へ転出するまでペンステートの教員だった。そのような人脈の中で、ペンステートのインストラクショナルシステムズは、AECT(全米教育工学会)を中心に活動する教育工学分野の研究者の主流の流れに位置していて、トラディショナルな教育工学教育の拠点ともいえるプログラムだった。
 この動きを理解する一つの背景として、アメリカの教育工学分野の近年の動向がある。この分野の大学院プログラムは、学習科学として位置づけられている近年の研究の流れをどう扱うかというところが一つのテーマになっている。研究資金の流れなどの政治的な話も絡んでくるので、教育機関の経営の舵取りの問題としては結構重要な問題になる。Learning Sciencesプログラムとして新たに立ち上げる大学もいくつか出てきていたり、インディアナ大のように既存のISDのプログラムとは別枠でプログラムを作る動きもある。だがこれも数校単位の話で、そもそも研究者の数が限られているので、大半のところは同じプログラム名で関わる教員の属人性でそのプログラムの持つカラーが決まる。
 ペンステートではこの研究分野の変化に対して、学習科学系の教員を採用することで、融合の方向で進んでいる。この辺りは各大学のプログラム長や学部長レベルの経営判断の問題で、社会的情勢変化をどう読み、政治的な(というか多分に研究者同士のエゴ)問題をどう消化していくかといった、舵取りに関わる研究者には研究者としての見識はもとより、経営的な能力や人間的な度量が試される。その点、ペンステートのこのプログラムに関しては、明確な意志とこの分野のトッププログラムである自覚を持って舵取りを進めているところが随所にうかがえる。おそらく大学院生レベルには見えてこないところでいろいろと問題もあるのだと思うが、少なくとも見えているところはとても気持ちよく、安心して見ていられる。
補足:
学習科学とISDの関係については以前に少し書いていたのを思い出した。
http://www.anotherway.jp/archives/000609.html
 これを書いたのは、2年前の修了試験準備の頃。この試験のシステムも今では変わり、テスト対策の詰め込み勉強をしなくてもよくなった代わりに、明確な研究テーマ無しには試験を受けられなくなった。どちらのシステムにも一長一短があり、それぞれに厳しさがある。個人的には旧システムの短所の影響を受ける真っ只中だったりする。あぁ。