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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第61号)

発行日:平成17年1月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 「主体性」の原則と謙譲の美徳 −ボランティア文化の異質性−

2. "シリアスゲームジャパン"

3. 部分課題から全体課題へ−教育課題から政治課題へ−

4. 第52回&第53回生涯学習フォーラム報告

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

 "シリアスゲームジャパン"
 

 ● 1 ● 「ゲーム」の可能性

  教育界における「ゲーム」は通常"悪役"である。確かに、子どもの生活時間へのテレビやコンピューターゲーム(C.G.)の侵入は生半可なものではない。子どもの一日が24時間しかない以上、メディアやゲームが子どもの日常を占領してしまえば、成長期の子どもが外で遊ばなくなることは自明の事実である。当然、成長期の子どもが集団を形成し、集団の体験の中で社会生活の予行演習を積んで来るということも困難になっている。
  C.G.への否定的見解は森氏が提起した「ゲーム脳」の呼称がそれを代表している。コンピューターゲームで遊んでいる時の子どもの脳から発せられる脳波が痴呆老人の脳波と同じ波形をしているというのがその根拠である。また、過日紹介した東北大学の川島隆太さんの研究では、コンピューターゲームで遊んでいる子どもの大脳の「前頭前野」は、「音読」や「計算ドリル」に取り組んでいる時の「前頭前野」に比べれば、ほとんど「血流」の流れがない、ということも発見された。要は、C.G.は子どもの脳の活性化にとって"危険"ではないか、という警告である。
  このような日本の教育界の消極的な反応に対して、米国のペンシルバニア大学院博士課程の藤本さんから厳しい批判が寄せられた。C.G.の機能を常にマイナスに受取り、その潜在的可能性までを否定するのは「使用方法」を無視した一方的な解釈である。原因は、ゲームメディアに未経験な"年寄り世代"の無関心と無理解による一方的な批判ではないのか、という疑問である(58号メッセージ)。
  この度、批判者の藤本さんにお目にかかって直接話を聞く機会を得た。以下は、東京大学の「ゲーム研究プロジェクト」において藤本氏が行った「北米におけるシリアスゲームの展開」についての研究の講義概要を参考にしてまとめたものである。


 ● 2 ●  リクリエーショナル・ゲームとシリアス・ゲーム

   多くの関係者にとって、娯楽と遊びから出発したC.G.のイメージは"軽い"。出回っている大多数のC.G.プログラムはエンターテインメントとレクリエーションを目的としている。所詮、"あそび"のメディアではないか!、という印象はここから発生している。しかし、それは日本の現状におけるC.G.機能の使い方の問題であって、C.G.の本質ではない。C.G.に「レクリエーショナルなあそび」の機能を持たせることができるように、反対の「職業や社会問題の解決に役立つシリアス(あそびでない)」の機能を付加することもできるはずである。C.G.の機能を駆使して、医療や教育や軍事やさまざまな社会問題の解決のための「学習」や「練習」や「適応」のためのメディアとして活用できないか?"シリアスゲーム"の発想はそこにある。藤本氏はすでに研究と普及のための「シリアスゲームジャパン」を設立して日米にまたがった活動を開始している。
  シリアスゲームはコンピューター・ゲームの娯楽性に対置される教育性、社会性を代表する新しい「概念」である。娯楽から出発したC.G.の概念はその可能性を「あそび」の先入観に支配され易いからである。あらゆる機能は中立である。医学の「メス」が医学的手術に使用されると同時に殺人にも使用し得るというのと同じである。C.G.の機能も同様である。シリアスゲームの概念を理解し、そのノウハウを共有し、具体的な人的交流の舞台を作ることが当面の課題となる。
  可能な未来課題は以下のようなことが考えられるという。


 ● 3 ●  シリアスゲーム研究の切り口と教育・学習機能への応用可能性

  藤本氏の指摘を箇条書きに列挙すれば以下のようになる。
【 研究の切り口 】
(1)  既存の市販ゲーム機能を教育に応用できるか?
(2)  ゲーム機能を応用して学習した場合、その学習効果はどうなるか?
(3)  ビジネス、教育、軍事、福祉など多様な分野における問題解決のためのゲーム開発をどのように手掛けるか?

【 シリアスゲームの教育・学習機能への応用可能性 】
(1)  実際場面では危険な環境でも、擬似環境を創造することによって教育や学習に対応できる。
(2)  ヴァーチャルリアリティやリモートコントロールに習熟することによって、多様な現実環境を想定し、現実には高コストな学習環境を低コストで再現することができる。
(3)  学習者の興味・関心を惹きつけることができる。
  その一例として、セガの「スーパーモンキーボール2」をプレイすることによって、画像に頼ったリモートコントロール方式の外科手術のトレーニングに効果があったという研究成果が発表されたという。また、アメリカ陸軍が新兵募集用のマーケッティングツールとして開発したゲームもある。それがシューティング・ゲームを応用した「America's Army」である。さらには、リーダーシップの仕組みを理解させるシミュレーション・ゲーム「Virtual Leader」や恐怖症治療のためのゲームも開発されているという。すでにアメリカ西海岸のサンディエゴにはゲームを医療に応用した「ヴァーチャル・リアリティ医療センター」が開設されているという。運転恐怖症には「ミッドタウン・マッドネス」、高所恐怖症や閉所恐怖症には「Unreal Championship」と呼ばれるゲームプログラムがすでに開発済みで、治療効果を挙げているという。
   過日藤本氏から寄せられた感想には以下のように文言があった。感想の背後には、積み重ねられたシリアスゲームの実践と成果の蓄積があったことを知った。年輩の研究者として、自戒に代えて紹介したいと思った次第である。
・・・『年配の研究者の方々には、自身のもつそうした新しいメディアに対する無関心や無理解が研究結果に反映されて、新しいメディアへのネガティブな論調を助長するような不十分な研究結果を世に送り出す傾向があります。そしてそれを教育委員会やPTAのような人々が拡大解釈して若い世代の文化を否定するような論調を形成している面があります。このような教育界の動きは若い世代との断絶や、広くはメディア産業の停滞を深めこそすれ、相互理解や歩み寄りを生むことはないと思います。』・・・

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