第52回&第53回生涯学習フォーラム報告
時の経つのは速いもので、来年平成18年は中・四国・九州地区生涯学習実践研究交流会が25周年を迎える。実行委員会では過去2回の例に倣って、この10年間の発表の中から注目すべき実践事例を選びだし、その背景となる時代分析を加えて、世に問うべき記念の出版を企画している。それゆえ、第52回の生涯学習フォーラムから福岡県の実行委員による発表事例を素材にした研究のまとめの特別発表プログラムに切り替えて実施している。特別発表は過去10年間の事例の中から担当の委員がそれぞれの問題意識で実践事例を選びだし、個々の事例について内容・方法はもとより、実践の先駆性、革新性、応用可能性、社会的、経済的、政治的効果などを報告する形式を取ることにした。また、従来の論文発表は、報告で取り上げられた個々の事例の背景を為す、生涯学習の課題を社会経済的に分析し、個別事例を総合化する方向で総括する役割を負うこととした。以下は2回のフォーラムにおいて取り上げた事例と事例を総括した論文のタイトルである。( )内の氏名は事例の分析者である。
第52回の取りまとめ事例
1 「高齢者の社会参加と世代交流舞台の創造」
発表者 直方市 森 一 郎 (福岡県穂波町教育長 森本精造)
2 無料託児「地域のおばあちゃん」事業−木花(きはな)地域婦人会の地域貢献と子育て支援−
発表者 宮崎県宮崎市木花地域婦人会 (三浦清一郎)
3 地域における「夏休みの教育力」−児童教育ボランティア「竹の子の里」の子育て支援−
発表者 佐賀県太良町福祉協議会 (三浦清一郎)
4 「子ほめ条例」の制定と「子ほめの里」づくり
発表者 大分県前津江村 平岡 敏彦 (福岡県立社会教育総合センター 朝比奈 昌二)
5 「青小唐津まで歩くんジャー」
発表者 古賀市青柳小学校 光延正次郎 (福岡県立社会教育総合センター 恵良 章治)
6 公立小学校による高齢者教育とコミュニティ活性化の試み
−多根尋常小学校「めだか学級」の挑戦
発表者 島根県掛合町 石飛 安弘 (三浦清一郎)
総括論文の基本視点(三浦清一郎)
1 地域における子育て支援の5W1H
子どもの「安全」と「生きる力」の向上を確かなものにする課題は、「居場所」の確保と「活動のメニュー」の創造である。もちろん、居場所を確保しても今の子どもに自分達で少年集団を作り上げる力はない。活動のメニューを提示したとしても、自分達の力で自らの活動を生み出して行くこともほとんど不可能である。すでに子どもを取り巻く社会生活の実情は親の子ども時代とは根本的に異なる。祖父母の時代とは隔絶している。当然、子どもも昔の子どもではない。
従って、子どもの居場所を彼らの「生きる力」の向上につなげるカギは、どうやって日常活動の指導者を確保するかである。すでに地方行政に指導者を招聘する財政的余裕はない。その時、総合的子育て支援を実践に移すカギはどこにあるのか?
2 熟年活力の条件−高齢者教育の貧困と福祉の蒙昧−
熟年の危機は人間の欲求に対応している。マズロウの研究を借りれば、人間には5段階の欲求がある。欲求には「段階性」、「順序性」がある。下の段階の欲求が満たされなければ、上の段階の欲求は到底実現不可能である。幸福の条件は基本的に下から上に満たして行くのである。それらは、「生存」−「安全」−「親和・社会性」−「達成」−「自己実現」の5段階である。それぞれの欲求には、それが満たされなかった時の人間の不幸の原因が対応している。不幸の原因への対応にも又「順序性」がある。5つの「欲求」に対応する順序で言えば、「死への怖れ」−「安全の不安」−「人間関係からの疎外感・孤独感」−「役割の喪失による無価値感・焦燥感」−「自己実現のない不完全燃焼感」である。高齢社会に生き残ることは上記5つの不幸に当面する危険を常に含んでいる。一つ一つが熟年に危機をもたらす。生涯学習も高齢者福祉も基本的にこれらの危機に対処することが目的である。にも関わらず高齢者に対する健康促進活動、教育活動、社会参加活動、生き甲斐充実活動のいずれの分野においても教育は貧困であり、福祉は蒙昧と言わざるを得ない。
|