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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第53号)

発行日:平成16年5月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 「子ども」と「児童」 −「半人前」の親と「4分の1人前」の子ども−

2. 「状況変化」の評価方法 −単位のないものをいかに比べるか?−

3. 「翻訳学問」を疑え

4. 雇用多様化時代の生涯学習

5. 「他者の人権」、MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

雇用多様化時代の生涯学習


「派遣法」の改正

  2004年3月1日から「改正労働者派遣法」が施行された。人材派遣はますます柔軟にかつ多様に活用できることになった。日経の紙上パネルディスカッション('04.4.6)によると、改正点は三つある。第1は、派遣受け入れ期間の延長である。これまで認められていた26業務については派遣期間の制限を撤廃し、それ以外の職種については派遣期間を3年に延長した。第2は、製造業務の派遣を可能にした。第3は事前に求人・求職の意思確認を行うための「紹介予定派遣」を制度上認めたことである。人材派遣の多様化は雇用の実態にも、市民の意識にも巨大な衝撃を与える。「衝撃」の中身は「評価」の意識化であり、「契約」の日常化である。両者の欠如こそが生涯学習停滞の原因であり、変革の最大の障害であった。


自治体の財政危機と生涯学習の構造改革

  個人営業を初めて以来の筆者の業務形態はその本質において「派遣要員」であり、「請負要員」である。法律上は、「派遣要員」は受入先企業の指揮命令下に入り、「請け負い要員」は請け負い会社の責任で働くという。筆者もその両方を行う。相手先が勉強している時は、その要請を忠実に実行しようとする。逆に、相手先の注文がくだらない時には「請負」でなければ引き受けない、という。しかし、問題は仕事のやり方ではない。評価のあり方である。日本の組織は終身雇用の伝統とあいまって、組織内労働者の評価がほとんど出来ていない。教育界や役所がその典型である。時にはただただ呆れるような仕事のやり方に出会う。したがって、行政主導型の生涯学習も評価は出来ていない。
  前号にも書いたが、自治体の財政危機は深刻である。にもかかわらず「介護予防」にも、少子化対策の「子育て支援」にも生涯学習はほとんど機能していない。教育行政には、これらの分野に生涯学習を活用しようという発想すら稀薄である。介護も子育て支援も地方が当面する最大にして緊急の課題なのに、生涯学習は必需品としての認知はされていない。行政のライフラインには入っていないということである。結果的に、生涯学習は縮小され、財政危機のしわ寄せを大きく受ける。一例は、職員はいても事業費はないというのが実態であろう。新規事業の予算もほとんど認められていないであろう。それゆえ、日経は自治体の「アウトソーシング」に注目している。事業費のない部門の職員に人件費を払い続ける愚はないからである。
  「財政難を背景に、公共サービスの受託ビジネスが大きく育とうとしている」(日経2004年4月18日)。市場規模は6000億円になるだろうと想定している。「財政難」が「受託ビジネス」を育てるという背景には、役所でやると非効率だが、民間に任せれば管理が可能になるという意味が隠されている。「戦略的アウトソーシング」とはそういうことである。2003年度末の「民間委託度」ランキングの1位から4位までを福岡県の都市が占めた。春日市、小郡市、宗像市、筑紫野市の順である。その後に全国の都市が続く。福岡県は時代の先端を走っている。民間委託が最も進んでいる施設は、公園・児童遊園、コミュニティ・センター、市区民会館・公会堂、市区営病院・診療所と続く。庁舎の受付や学校給食の委託も始まっている。認可保育所の運営を受託した企業もある。従来の生涯学習には戦略的アウトソーシングの発想が皆無であった。生涯学習プログラムの充実は現状のシステムの範囲内でやろうとする発想しか出て来ないのはそのためである。したがって、関係者の意見を聞いただけでは現在の施策の延長上の発想しか出て来ない。したがって、「公的サービスの外部委託」のような未来予測は決して登場しない。
  先日は鳥取県の研修会で、NPOが自らの財政基盤の強化を図るために行政のプログラムを引き受けるのは「下請け」、「孫受け」になる心配はないか?という質問が出た。従来の「下請け」、「孫受け」には創造性の欠如したどうでもいい仕事であるかのようなマイナスの響きがある。それ故であろうか、聞かれたNPOの方も咄嗟に『そうならないように気をつけます』、と応えた。しかし、よく考えれば、「下請け」も「孫受け」も受けた側の作戦次第で戦略的アウトソーシングとなり得る。やりようによってはこれまで行政主導型のやり方より遥かに優れた成果をあげることができる。でなければ人材派遣会社を始めとする企業の「アウトソーサー」は存在し得ない筈である。前号で生涯学習の構造改革「株」があるとすれば「買い」だと書いた。「生涯学習の構造改革」株とは公的サービス・プログラムを引き受ける企業の株である。

サービスを忘れたサービス業
   最近の生涯学習はサービスを忘れたのではないかと思うことがしばしばある。担当者に熱意がなく、愛嬌がなく、思いやりがなく、気が効かない。何よりも仕事を楽しんでいない。結果的に、お客も楽しくない。先日、第23回生涯学習実践研究交流会で生涯学習落語を演じた大分県宇目町の矢野大和さんが、自分が訪れる自治体等の診断基準を披露してみんなを笑わせていた。ひどいところは「あんた誰?」に近い反応を示す。次は、「どこの矢野さん?」とくるそうである。組織評価の第一基準は客を迎える接遇の態度である。配達を終わったヤクルトのおばさんが明るく『有難うございました』、と挨拶をしても誰一人応答もしない職場では働きたくないと矢野さんは言った。共感したのであろう、皆が笑った。しかし、笑ってばかりもいられない。先日筆者にも没サービス公民館の順番が廻って来た。若い担当者の熱意にほだされて小さな町の講演を引き受けた。ところが4月の人事異動で彼は別の部署に移ってしまった。講演の前日後任者から電話があって開式の30分前に来て下さいということであった。当然である。当日は45分前に着いた。ところが公民館には誰もいない。本を読んで待っていると恐縮した実行委員の女性が来て事務室の中へ案内してくれた。そこにも誰もいない。仕方なく空き机にすわった。やがて教育委員会の若い担当者が駆けて来て、会場の整理をするのでもう少しここにいて下さい、という。そうこうする内に二人の中年男女が来て事務室の机に座った。『お世話になります』、とあいさつをしたが「ああ」、と会釈をしたきりで怪訝な顔である。女性は一言も口をきかない。その内聞こえるか、聞こえないかの声で『この人誰?』と男が言った。女は首を振った。たまりかねて、『この人は本日の開講式の講師です』、と言って部屋を出た。しばらく、向いの中学校の運動会の練習風景を眺めて時間をつぶした。ようやく若い担当者が呼びに来て開講式の後すぐに始めるので2階で待機して下さい、という。課長や係長も登場して名刺の交換をした。しかし、開講式は延々と続いた。約20分遅れの開演であった。受講者に罪はないので一生懸命務めて提案を終え、風の便りの残部を希望者に差し上げた。沢山の手が上がってみなさんの反応を垣間見た気がしてうれしかった。「有難うございました」と言って帰りのあいさつをすると若い担当者は「後片付けがありますのでここで失礼します」ときた。1階事務室ではおじさんとおばさんが何やら一生懸命におしゃべりの最中であった。最初に対応して下さった実行委員の女性が済まなそうに玄関まで見送ってくれた。アウトソーシングの時代である。愛嬌も、サービスも礼儀すらも忘れ果てた公民館などつぶしてしまえ、と言ったらやはり私が憎まれるのであろうか?
 

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