伝統の再点検
宗像市は年末に60歳以上の市民を対象に「生活習慣ドック」と名付けたコンピューターによる健康診断を行なった。質問を読んだだけで”アホ臭い”と思ったので放っておいたら、督促が来たのでやむを得ず率直な回答を書いて送り返した。質問の数は優に100を越えている。質問の多さだけでもこの種の調査票としては落第であろう。一般からの協力が得られる範囲は20問程度が限界である。質問が多ければ、多くのデータがとれるであろうと想定しているのであろうが、調査者は人間の集中力を勘違いしている。この種の質問にすべて真面目に答える生真面目さこそ”不健康”である。企画は「ライフプランニングセンター」で開発者には、かの有名な日野原重明氏を筆頭に大学教授が名を列ねている。
コンピューターの助言
1 わが食生活は肉や油類が多く、塩分を取り過ぎる傾向がある、という診断が出た。確かに、焼肉が好きで、味噌汁は全部飲む、と答えたからであろう。しかし、私は焼肉も、味噌汁もめったに食べてはいない。好きである、と回答し、もったいないので汁も全部飲む、と書いただけである。珈琲に砂糖を二つも入れて飲むので、自覚的には、糖分を取りすぎているのは分っているが、その種の質問が不足しているので糖分抑制のあるべき厳しい助言はなかった。
2 余暇の使い方は、「社会活動」に偏り、「娯楽」が足りない、と助言があった。「自分の楽しみのために時間を持ち、新しい情報を得るよう心掛けよ」と改善点が示唆された。私は仕事やボランティアを十分に楽しんでいる。これらの活動は新しい情報を常に要求している。ひと交わりも不可欠である。楽しみは「娯楽」だけだと思う短絡性こそがこの種の調査の問題である。「性格」と「心身の健康状態」・「酒・タバコ」については合格点を貰ったが、問題は「人間関係と生活態度」についての評価であった。
伝統の意味
正直に答えた結果であろうが、私についての診断は、「伝統やしきたりを軽視し」、「経済的観念が不足している」という。私の回答に対するコンピューターの結果判断は「正しい」ので全く異論はない。問題は結果の「解釈」である。
調査結果の基本的な読み方は報告書の冒頭に特記されている。そこには”円グラフの中の図形が外側へ近付く(回答値が高い)ほど良い傾向を示しています”、と説明している。それゆえ、わたしの生活態度は、伝統の尊重も、義理人情も、経済観念も、すべてA,B,CランクのCであり、円グラフの内側に固まっている。人間関係と生活態度は”よい傾向ではない”、ということになる。
調査結果の裏面には「報告書の見方」の解説がある。「義理人情」の項目は”他人の誠意を信じて礼儀正しく、恩義に厚い生き方を目指しているかを見ます”とある。「伝統」の項目では”従来のしきたりにしたがって、伝統を重んじる生き方を目指しているかをみます”とあった。それが「堅実な生活態度」であると総合評価に解説している。結果的に私の生活態度は「堅実さに欠ける」とアドヴァイスがあった。冗談ではない!!
「伝統」と「しきたり」こそが敵である
棟上げ式にはなぜ男の子だけを棟に上げるのか?子ども神楽になぜ女の子は参加させないのか?神事や祭りの直会にはなぜ男だけしか出席させないのか?地域の草刈に出てもなぜ女性だけに「出不足金」を課すのか?大阪場所の土俵にはなぜ女性の太田知事が上がれないのか?PTAの会長も、隣組みの区長もなぜ男だけなのか?事はすべて伝統としきたりの問題である。このような伝統としきたりに従うことが「堅実な生活態度」であるというのであれば、その態度こそが問題なのである。この種のコンピューター調査は、市役所と大学の名を使った金と時間の無駄以外の何ものでもない。 |