テレビを双方向なメディアと考える世代

 今週12月1日土曜日に、BEATセミナー「スマートテレビが変える家庭学習」を開催します。
 この告知も兼ねつつ、ついでにこのテーマに関連して最近感じていることを書いておきたいと思います。
 これまでテレビは、送り手が放送して視聴者は受信する一方向メディアの代表例で、教育メディア研究の分野では、双方向性が売りのマルチメディア教材と対比して扱われる古いメディアの象徴のような存在でした。部分的にはだいぶ以前から、デジタル衛星放送や地デジデータ放送などのサービス化の試みとともに双方向な要素がサービスに追加されていますが、基本的にテレビとは「受動的に情報を受信するメディアである」という認識が一般的でした。
 そのような認識がそろそろ本格的に変わろうとしているのかなという兆しがここ何年かの動きとして出てきています。たとえば、これまでに通信系、放送系それぞれにテレビのインタラクティブなサービス提供の新たな試みがおこなわれていることに加え、マイクロソフトTVやAppleTV、GoogleTVのように、従来の放送通信業界ではないテレビ向けのサービスプラットフォーム提供者がでてきています。
 興味深い例として、先月、ミシガン州立大学で開催されたゲームと学習に関する国際会議の「Meaningful Play 2012」で、「Researching Playful Learning in Two-Way TV」という研究発表がありました。米国のマイクロソフトリサーチで現在進められている、Kinectを利用した子どものインタラクティブな教育テレビ番組への反応に関する研究が紹介されていました。Kinect用に制作された「Kinect Sesame Street TV」や「Kinect Nat Geo TV 」を3~5歳の子どもと母親に視聴してもらい、その親子のテレビの前での振る舞いや対話の様子を調査するというものです。
 調査で収録されたビデオには、最初は母親に促されてこわごわ手足を動かしている子どもが、すぐに要領を得て、セサミのキャラクターと一緒に遊びながら視聴するという行動に変わっていく様子が記録されていました。この被験者の子どもたちは、テレビのキャラクターが自分に反応するという新たな経験を得ながら、上の世代には存在した「ゲームとテレビの境界」がなくなった世界を生きていくことになると思います。
 似たような話で、ついこの間まではパソコンのモニターは触っても操作できないのが常識だったので、コンピュータの苦手な中高年にパソコンの操作を教えていて「ここをクリックして」と画面を指差すと、そのまま画面を押そうとするという笑い話がリテラシーの低さを表すエピソードとして語られていました。しかし、iPadなどのタブレット端末やスマートフォンの普及で、画面を直接触って操作するのが当たり前の世界で育った子どもたちからすると、今や触って反応しないパソコンのモニターの方が変だという認識に変わりつつあるのを私たちは日々目にしています。
 こうした変化はこれまでも、その昔、観音開きの戸棚に有難く収まっているテレビを一家みんなでかしこまって視聴していた時代から、各部屋で一人一台、さらにパソコンでもモバイルでも視聴できる時代になり、もはや後戻りできないほどに人々の番組視聴行動の個人化が進んだことや、別の似たような話で、携帯電話を一人一台持つようになり、女の子の家に電話をかけると必ずその子の親が出るという障壁をどう乗り越えるかが課題だった時代の恐怖経験が、すでに過去のものとなったといった話も関連しています。
 今回のセミナーでも、登壇者の方々から各社の最新事例を交えてこれまでの取り組みについてご紹介いただきますが、これらの取り組みを見ていると、現在進行しているスマートテレビ、インタラクティブテレビの展開は、ようやく「放送と通信の融合」と言われながら実現しなかった世界がようやく到来しようとしているのかなという気がしてきます。双方向なテレビのサービスが家庭に普及した中で育った子どもたちは、一方向メディアの代表としてのテレビという私たちの世代のメディア認識とは異なる前提で生きていくことになるでしょう。
 今回のセミナーは、そのような「未来のテレビ像」を垣間見ながら、これからの子どもたちの家庭学習やインフォーマルな学びのあり方についてディスカッションする機会となればと思います。皆様のお越しをお待ちしてます。