セカンドライフビジネスは落とし穴だらけ

 一般メディアで頻繁に取り上げられ、ガイドや関連書も大量に出版され、もはや一般消費者レベルまで認知が広がってきた感のある3Dバーチャル世界「セカンドライフ」。その注目のされ方は、新たなコミュニケーション空間ということにも増して、バーチャル世界のビジネスチャンスという扱われ方がよくされています。まあどんなビジネスであれ最初はそんなものではありますが、今はかなり売り手の意欲が先走っているところがあって、実態とはやや温度差があるようです。
 この温度差があるうちに適切なビジネスモデルを組めれば本当にビジネスになる見込みはあるし、そうでなければただ踊らされて無駄銭を払って、高い授業料を払ったね、となる危険もあります。そういう意味では、まだ海のものとも山のものともいえない状況にあると見た方がよいでしょう。
 認識しておくべきことは、リアルのビジネスで成功する力のない人が、バーチャルだから成功するということはまずないということです。これはリアルビジネスで成功しなくてはバーチャルで成功できないという意味ではありません。リアルだろうがバーチャルだろうが、その商材や使うツールが異なるだけでビジネスはビジネスという点に変わりはないのですから、そのビジネスとして成功させる知識なり経験なりがないまま、煽り文句にそそのかされて素手で飛び込んだところで、すぐに成功できるほど甘いものではないことをよく心に留めておくことがまず大切です。


 世の中には人の欲目に付け込んで、さもうまい話があるかのように煽って、成功したい人たちからお金を得ることを商売にする人はいくらでもいます。インターネットビジネスであれ、株であれ、資格であれ、訳のわかってないプレイヤーがたくさん参入した方が得をする人たちというのはいて、彼らにしてみれば、訳がわからない人であればあるほどいい商売ネタなのです。なので、そういう人の話を鵜呑みにするのはやめた方がいいでしょう。
 結局どんなビジネスであれ、成功できるのはごく一部、あとはやり方が悪いか、タイミングが悪いか、そもそもニーズのないことをやっているかで、たいていは失敗します。途中で挫折する人が大半で、なかにはそのなかでも粘って苦労してノウハウを積み上げて、時間をかけて成功する人もいます。でも、そういう人は何をやっても成功するというのが一つのトリックで、その成功例をみて、人はまた勝手な幻想を抱いて安易に参入しようとするのが世の常です。そのような節操のないフォロワー層というのはどこの世界でも変わりません。
 セカンドライフがビジネスチャンスの人とはどんな人でしょう。まず、リアルで積み上げてきたノウハウや経験と、セカンドライフの特質がマッチするものを持っている人です。たとえば寿司職人がリアルでの経験をもとに「バーチャル寿司屋」というのをセカンドライフで開業したとして、趣味としては楽しいかもしれないが、ビジネスとしての成功は期待できません。現状では、味覚や嗅覚に関することはまったくメリットがありません。あえて言えば、寿司にまつわる周辺の知識や視覚的なもので何か人々が利用したいサービスや商品が出せるのであればまだ可能性はありますが、そういうものが思いつかないなら、リアルの商売をしっかりやれという話です。
 寿司屋の話は単純なので、誰でもそんなバカなことはしないよと思うかもしれないが、案外参入の動きのある企業の中には、この寿司屋の例のような話が結構あるように思います。今はセカンドライフ支店を出すというだけで話題にはなるし、大企業であればたいした投資でもないし、普段もくだらないことに無駄遣いをたくさんしているのだからたいした話ではないかもしれません。彼ら大企業にとっては、しばらく試行錯誤して失敗してもたいしたダメージにはならないわけです。
 ところが、個人が同じようにかなりのリスクを負って飛び込むということになると話が変わってきます。セカンドライフ起業で注目されている人たちもいるじゃないか、という人もいるかもしれないが、彼らは純粋にセカンドライフ内でビジネスをしているのではなく、ビジネスをしたい人たちを支援する人たち、悪く言えば煽り手側の人たちなので別枠で考えた方がよいでしょう。問題は、土地分譲やオブジェクト販売(とギャンブルやポルノ)以外のビジネスで、お金を落としてもらえる仕組みが考えられるのかどうかにあって、それがなければビジネスにはなりえないのです。
 ここで言うビジネスモデルとは、必ずしもリンデンドルで収入を得る必要はなく、リアルのビジネスのサービスの一環としてリアルマネーで収入を得るなかでセカンドライフを利用するという形でも構いません。どんなかたちであれ、客がお金を払いたくなるものをお金を払いやすい形で提供することでしかビジネスは成り立たず、逆にそれが実現できればセカンドライフ経済の枠にとらわれる必要はないわけです。
 先ほどの、リアルで持つノウハウとセカンドライフの特質がマッチする要素、という点で言えば、コミュニケーションに関わる商材であれば、ビジネスチャンスとなる可能性はあるように思います。コミュニケーションというと幅が広く、認知強化、啓蒙、知識学習、さまざまなレベルがあります。ただ、これもビジネスモデルとして確立されているものがあるわけではないというところに注意が必要です。教育分野でも大学の授業での利用などの取り組みがされていますが、セカンドライフだからという付加価値でお金が取れるものはまだ見られません。広告モデルというのが一番ビジネスに近くて、広告代理店系の企業が積極的なのはそのためでしょう。
 とまあ、こういう話を念頭に置きつつセカンドライフを絡めたビジネスを考えていかないと、状況としてはかなり厳しいと思います。どんな分野であれ、煽り手側の人たちはこの辺りのビジネスの落とし穴にはあまり触れないか、触れても大丈夫だと説得させるためのネタとして使っていたりするので、気をつけてください。セカンドライフでのビジネス参入を検討されている皆さんへは、少しビジネスの全体観として、このプラットフォームを使う意味は何なのかをよく考えつつ、テクノロジーに振り回されない骨の太いビジネスを構想していくことをお勧めしたいと思います。