SFCよ、悪かった

 そういえば、大学を卒業して、もう丸10年になる。大学は慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、通称SFCの出身なのだけども、卒業以来、大学そのものとはほとんど接点がない。遠い藤沢市にあるキャンパスにも、仕事がらみの打ち合わせか何かで何度か足を運んだきりで、ホームカミングやリサーチフォーラムのようなイベントにも全く参加していない。
 気分的に何となく、あまり関わりたくないような、近づきたくないような気がしていたのも正直なところだった。それは在学中や就職してすぐの頃の、SFC卒業生についてのベンチャー志向で云々といったメディアでの喧伝やら企業や他の大学の過剰反応のようなものにうんざりしたさせられていた気持ちから来ているのかもしれない。


 卒業以来そんなやや否定的な気分でいたものの、よくよく考えてみると、SFCには改めて感謝しなおさないといけない気がしてきた。大学受験でうんざりしていたところを、学ぶことの楽しさを味あわせてもらったことに始まり、学部生の身でアシスタントとして授業を作る側に回らせてもらい、研究プロジェクトにも参加させてもらい、学生として受け身で講義を聴くだけの場ではなく、学習の場に主体的に参加する機会を与えてもらった。任された仕事をやりきることの大切さも経験したし、仲間と夜通し作業して「厳しい楽しさ」も学んだ。コンピュータ関連のスキルも普通に文系学生をやっていたのではとてもできないところまで身につけることができた。今自分が頼みにしている仕事上のスキルのなかには学部時代に形成したものもある。
 これまでにも、新卒で勤めた会社では、大学名でやや過剰な期待をしてくれたおかげもあって行きたい部署に行かせてもらえて、その会社の事業開発を経験できたし、次にお世話になった会社も大学時代に関わった会社だった。留学前の最後の仕事も、学部時代に出会った師匠との関係あってのものだった。
 今回の帰国に関しては、経済的な工面のために受けたプロジェクトの仕事は、学部の同期が予算をとってきて切り盛りしている。博士論文の研究で一番重要な協力者も、実は大学の後輩だったりもする。彼らとは、SFCで学んできたことで共有している経験や価値というものがあって、面白いものを面白いと感じ、大事なことを大事と言葉を尽くさなくても認識し合えるところがある。学部当時には接点のなかった人であっても、面白がるツボのようなところは不思議と共通するところが多かったりする。
 もちろんそれは、SFCにいなければ得られないものではないし、いたら必ず得られるものでもない。同じキャンパスで学んだからと言ってウマの合わない人間もいるし、そんなことを共有していなくてもよく分かり合える人はたくさんいる。それは当たり前なのだけど、学部時代に経験したことや、同じ経験を共有した人たちとの関係というのは財産であって、それだけのものを与えてくれたSFC(当然慶應大学に、ということでもあるのだけど)には感謝しないといけない。普通の卒業生よりもうんと世話になっているにもかかわらず、否定的な気分でいるとはなんと恩知らずな。SFCよ、悪かった。そんな気分になった。