元気の出る学会

 今週は、ペンステートで開催されている「Designing Interactive Systems2006」というヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)系の学会に参加している。
 昨日は1日ワークショップをやっていて、ゲームデザインワークショップに参加した。実際に簡単なゲームをデザインするハンズオンセッションに始まり、ユーザーインターフェース研究や、インタラクションデザイン研究、ユーザーエクスペリエンス研究など、それぞれの立場からのゲームデザイン研究に関する発表とディスカッションが終日行なわれた。ゲームデザインと同じ言葉を使っていても、研究分野によって切り口が違っていて、その違いの部分には、多くの刺激の素が含まれていた。
 カンファレンス本編初日の今日は、デザインアプローチの研究、インタラクションデザイン、感覚的インターフェース、デザイン評価、などのセッションがあった。HCI分野の学会に出るのはこれが初なので、この分野の「デザイン」に対する捉え方の多様さをとても新鮮に感じた。これだけさまざまなデザインのアプローチや切り口を見せられると、教育分野でデザインと称しているものは、「デザイン」の「デ」の字もカバーできていないんじゃないかという気にさせられた。みんなビジュアルやアニメーション効果の使い方が普通にうまかったりするし、観察研究なんかもフットワーク軽くちゃっちゃとやっている印象だった。特に、ヨーロッパの研究者たちの発表を見ると、デザインという概念がよりオープンで、より参加的な意味を持っているようで、そういうところはぜひ現地で肌に触れて学んでみたい気にさせられた。
 どのセッションもそれぞれ得るところがあって、いいヒントをたくさん含んでいたが、エスノグラフィ研究のセッションで出てきた、カナダ人女性研究者の「ナイトクラブにおけるDJのインタラクションに関する理解」という発表には、他のことが全て吹き飛ぶくらいのインパクトを受けた。その発表は、質的研究の王道のような見事な発表だった。質的研究は、フォーカスが甘かったり、仕事量が足りなかったりすると、非常にヘナチョコなものになりやすい。だが、よくデザインされて、よく解釈整理された研究は、説得力にキレが増して、聴く人に強烈な印象を残す。この研究は、こういう研究やりてぇな、と心からうらやましくなるような研究だった。
 夜はレセプションがあった。こういう社交の場はすごい久しぶり。ヨーロッパやカナダや全米あちこちから来た研究者たちと交流できた。特に、エスノグラフィセッションの研究者たちとじっくり話ができたのは収穫だった。教育分野で質的研究というと、定量研究しか認めない人々との対立なんかもあって、逆風が前提の陰のある雰囲気がある。だが、ここで会ったHCI分野の質的研究者たちは、そういう暗さは全く感じられなかった。質的研究が一つの研究アプローチとして受け入れられているようで、客観性に対するコンプレックスのようなものを持っていない。この人たちの研究に対する柔軟な考え方が、話していてとても心地よかった。
 今回の学会参加費は275ドルで、やや厳しいなと思いつつも、何かいいことがありそうで思い切って参加してみた。この初日でもうもとが取れて、それ以上のものを得た。最近はどうも研究への気合が弱りがちだったので、その気合を回復して余りある元気をもらった。何かいいことがありそうだという予感は正しかった。
 最近、自分の研究でオンラインエスノグラフィをどう正当化しようか、とかセコイことを考えていたのがバカバカしくなった。フィールドに出て、うんとインタビューした方がデータも豊富だし、何よりやっていて断然楽しい。そもそも自分が話すよりも、人の話を聞く方が好きな性分なので、インタビューは一番好きな活動だ。学部の卒論でグループインタビューをやった時も、去年やったオンラインゲーム研究でやったインタビューも、面倒くさがりながらも、結局はむちゃくちゃ楽しんでやったことを思い出した。そして今進めている研究には、その楽しい作業が待っていることを再確認できた。がんばろー。