ドラえもんの人生ゲームと作り手の想像力

 ちょっと前の話になるけど、先月東京に滞在している間に、有楽町のビックカメラのおもちゃコーナーに立ち寄った。日本に帰る度におもちゃ屋に寄って、どんなのが流行りなのかを見るようにしているのだが、今回はずいぶんフィギュア系のおもちゃの凝ったものが増えた気がした。あまり金が無かったので買わなかったが、幕末の有名シーンのフィギュアが気に入った。別のコーナーでは、子どもが父親とムシキングで遊んでいた。最近の子どもは複雑なルールとすごい情報量の遊びを楽しんでいるのだなと感心する。
 ボードゲームのコーナーでは、ドラえもんの人生ゲームを売っていた。これは面白そうだと眺めていたら、ゴールのところがひっかかった。億万長者のゴールの方が、しずちゃんと結婚でハッピーエンドとなっているのだが、ゴーストタウンがジャイ子と結婚になっていて、うれしそうなジャイ子の顔と、泣きわめくのび太が並んでいた。ドラえもんのストーリー的にはそういうつくりになるのかもしれないが、ジャイ子と結婚するのが、人生ゲームの最後の大負けのゴーストタウンとは。なんとなくジャイ子がかわいそうでいたたまれない気分になった。ゴーストタウン行きというのは、ものすごい人生の敗北者的なインパクトで、子ども心にうわー負けたーという気分にさせられるものであって、ここではジャイ子と結婚したのび太の将来の、会社丸焼けと破産にした方が趣旨に合ってるし、何もジャイ子をそんなにおとしめなくても。というか、そもそもハッピーエンドの方もしずちゃんと結婚というだけなので、オリジナルの人生ゲームの深みが抜けてしまっていて、全くダメである。人生ゲームの趣旨をまるでわかっていない。
 


 ゲームに限らずどんなコンテンツにしても、作り手の想像力が貧しければ、どんなにネタがよくても台無しになる。遊び心の豊かでないゲームデザイナーが作ったゲームはそのデザイナーの遊び心を超えるゲームにはなり得ないし、学習について理解の浅い教育者が作る教育コンテンツは、退屈で、学びを促さない。テレビでも映画でも同じことである。創造力、とすると大げさな感じがするが、たぶんに創造力の大半は、いかに利用者側の気持ちに配慮してものを作れるか、という想像力の問題である。作品の深みや、製品の使い心地のよさといった部分は作り手の想像力の賜物である。
 ドラえもんで人生ゲームを作る、というテーマは同じでも、作り手の想像力の違いで商品の質には大きく差が出る。店頭で見かけたこのゲームは実際にどうだかはプレイしてないのでわからないが、ドラえもんのよさも人生ゲームの深みも活かせず、安易に面白おかしくしただけのコンセプト不在のゲームになってしまうこともある。オリジナルの人生ゲームは、職業選択でその後の人生に大きな影響があることや、人生における運不運や足の引っ張り合いの存在、手形や保険の機能など、人生において起こるさまざまなことの大変さを垣間見ることのできる優れたゲームである。そしてドラえもんは子ども達の間に広く普及したキャラクターであり、そのストーリーや出てくる秘密道具の数々は、ゲーム性を高めるアイデアにあふれている。それらを組み合わせた上で、どんなゲーム体験が作り出せるか、それをプレイした子ども達にどんな楽しみ方をしてもらいたいか、そうしたことに気が回る作り手であれば、単にキャラクター版の二番煎じゲームになるのではなく、オリジナルを超えた人生ゲームを作ることも可能なはずである。その時、おそらくゴールはしずちゃんやジャイ子との結婚ではない。映画版のドラえもんを見終わった後のような豊かな満足感を得られるようなエンディングが待っているはずである。
 いろいろ書いたが、つまるところは、「ジャイ子をいじめるやつはオレが許さん!」というジャイアンの気持ちを伝えたかっただけだったりする。

ドラえもんの人生ゲームと作り手の想像力」への2件のフィードバック

  1.  私は2人暮らしにも関わらず、人生ゲームが6種類も家にあるという人生ゲーム好きです。このドラえもんの人生ゲームは、確かにエンディングが弱いな、という気になりますね。ということで購入に至っていません(これを買ったらキティちゃん人生ゲームも買わないとコレクターとして中途半端になるかもしれないから)。
     中途半端かといって、「大金持ちののび太」というのも違和感があるところですし(だからこのゲームにお金が出てこないのでしょう)、ゲーム作者は一番頭を抱えたのではないでしょうか。難しいですね。
     どちらにしても、今日本では、昔のボードゲームや復刻版のパーティーゲームを家族同士でプレイするというのがじわりとブームになっているとニュースで言ってました。テレビゲームと違って家族で向き合ってプレイするスタイルが家族間の会話を生み出していいとのこと。この人生ゲームも一役買っているのでしょうね。

  2. ボードゲームはいいコミュニケーションツールですよね。大人もそうですが、子どもにとっては強力な学習ツールです。
    ドラえもんの人生ゲームをどうデザインするか、というのはデザインワークショップネタとしてとても面白いので、いつか日本で教えるときやってみたいです。

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