ちょっと前の話になるが、仕事の合間をぬって、日本で買ってきたプレステのゲームの中で、「サテライTV」というデジタル衛星放送会社経営シミュレーションゲームを試しにプレイしてみた。デジタル衛星放送の会社を経営するという、なんともニッチでマイナーな香りがしてくるこのゲームにはちょっとした思い出がある。
このゲームが売り出した頃がたしか7年前とかそのくらいで、私はその頃まさにデジタル衛星放送の教育チャンネルの番組編成や広報企画の仕事をしていた。今はスカイパーフェクTVだけになったが、当時はパーフェクTVというその前身の会社と、吸収合併されたJスカイB、それに参入後すぐに撤退したディレクTVという3社で競争だという話で盛り上がってた頃だった。みんなデジタルという言葉に新たなビジネスチャンスの幻想を抱き、とにかく先に始めれば必ず儲かるという浅はかな期待のもとに我も我もと放送ビジネスに参入しようとしていた時代だった。私の勤めていた会社はその際たるもので、年商130億程度の規模で、チャンネルを増やしまくり、最盛期には5チャンネルも流していた。そんなにあっても流すコンテンツを増やす予算がないため、私はあまり張り合いなく仕事をしていた。そんなある日、駅ビルのゲーム屋でふと見かけたのがこのサテライTVだった。こんなマイナーなゲーム作る物好きもいるんだなと思いつつ、興味はあったのだが、当時はゲームを全くやってなかったのでそのままスルーした。
その会社も私が辞めた後、ついにそのチャンネルが垂れ流す赤字に耐え切れなくなり、会社の体面もかなぐり捨てて4チャンネルを返上し、家庭向けの教育番組配信事業は大幅に縮小されたと後で聞かされた。あんな調子じゃそれもしょうがないなと思いつつ、このゲームのことも記憶から消えていった。
それから7年ほど経ち、私はゲームの研究などするようになっていた。年末に帰国した折、研究の題材になりそうなゲームを漁りに中古ゲーム屋に足を向けたところ、このゲームが店頭に並んでいるのを見かけた。480円の値札が、デジタル衛星放送業界の夢のあとを象徴しているようで、ややいたたまれない気持ちがした。その安さにも釣られてとりあえず買って帰ってきた。
そしてようやく先日試してみた。7年越しでこんなゲームをプレイすることになって、何となく自分の歴史に思いを馳せたくなる気分がした。ゲームはいたってシンプルなつくりになっていて、かわいい秘書を雇って、適当にチャンネルのジャンルを決めて、ディレクターを雇って番組を作らせて、後はひたすら月次の視聴者数と収入が変動するのを見守りつつ、収益をあげていくというものだった。とりあえずは実例に倣って、当時ありがちだったチャンネル構成で、安いディレクターを雇って始めてみた。すると瞬く間に経営状態が悪化し、手持ちのチャンネル売却、ディレクター解雇という流れになって、すぐにあえなくお倒産してしまった。当時は実際にそんな会社ばかりで、つぶれたり他の会社の系列に吸収されたり、急にアダルト系に鞍替えしたりするチャンネルが続出してたので、皮肉にもその点はリアルに再現されていたのかもしれない。当時の経営者達もせめてこのゲームをやってから参入してたら、もしかしたら大金はたいて撤退しなくても済んだかもしれない、などと思った。
私のこのような個人的経験と、このゲームの醸し出す微妙な寒さもあいまって、夢破れて山河あり、つわものどもが夢のあと、という無常感の残るゲーム体験だった。
そういえば、当時会った経営者や大手企業の管理職というのは傍からみてもほんとに低付加価値な雰囲気の人たちが多くて、そんなのでは、桃鉄やってビジネス感覚を鍛えたITベンチャーの社長に、買収を仕掛けられて混乱する様子もむべなるかな、という印象である。ドラッカーもこの状況を知っていればこう言ったかもしれない。「日本人がメガビジネスやマネーゲームに弱いのは、子どもの頃にモノポリーで遊んでないからである。外交センスがないのは、ディプロマシーやバランスオブパワーで遊んでないからである」と。