12/15(水) 帰国の途

 15日の朝6時ごろ出発。毎度のことだが出発前はばたばた。ワシントンDCのダレス空港で乗り換え、成田へ。今回は青い方の日系航空会社を利用。日本人のスチュワーデスで、各座席にテレビがついてて、映画も日本語吹き替えや日本語字幕がついており、小林克也のベストヒットUSAなんぞが流れていたりしている。映画はトムクルーズのコラテラルなどをやっている。まわりが中国人の子連れが多く、ややうるさかったのをのぞけばなかなか快適だった。隣に座ってた熟年の中国人夫婦が道中なかなか楽しませてくれた。


 この夫婦、二人とも英語がまったくしゃべれない。おいさんの方は声がでかくやいのやいのとしゃべっている。飯や飲み物のたびにスチュワーデスとのやり取りがかなり笑えた。飲み物のパックをひとつずつ手にとっては、「これ?」と聞くのだが、二人とも違う違うとなかなか決まらない。どうにか飲み物が決まり、食べ物の番になって、一計を案じたスチュワーデスが、紙に1鶏、2魚と書いた紙切れを持ってきて聞いた。おいさんはうなずきながら魚を頼んだ。でも届いたものを食べて、うぇーまずーというしかめっ面をしつつ、私の頼んだ鶏の方をうらやましそうに見ていた。おばはんの方もなかなかいい味を出していた。彼女はダイエットメニューを頼んだらしく、別メニューが届く。おやつの時間にカップラーメンが配られたのだが、おばはんだけはベーグルサンドである。田舎のおばはんにはこんなハイカラな食べ物はあまり口に合わないらしく、しかもカップラーメンがうらやましくなったようで、スチュワーデスになにやら自分もラーメンをくれと伝えようとしている。スチュワーデスもあまり勘がよい方ではなくて、何のことやらさっぱりわかってない。仕方ないので私が「この人もラーメン食べたいみたいですよ」と助け舟を出すと、スチュワーデスもようやく合点がいったらしく、でも一人一食だったようでだめだめとつれない。たまたま通りかかった別のスチュワーデスが中国語をしゃべれるとわかると、ラーメンをくれと猛烈に中国語でアピールし始めた。しかしルールはルールということで中国語で丁重に断られた様子でがっかりしながらベーグルサンドを平らげた。
 この中国人夫婦の話はまだ続く。次に飲み物がまわってくると、今度はおいさん、私が持っているペンを貸せといい、紙ナプキンにいそいそと何かを書き始めた。私が通路側なので紙を手渡されると、そこには「牛乳一杯」と漢字で書いてある。勘のよくないスチュワーデスも今度は間違いようもなく、きちんと牛乳を一杯持ってきた。おいさんは大変満足げでに牛乳を飲んでいる。何も来ない間も、機内食では足りないらしく、しょっちゅう何か食べている。二人でなぜかゆで卵を大量に食っていたのが妙におかしかった。
 次の飲み物のタイミングでもまたこのおいさんはいい味を出していた。味を占めてまたペンを貸せというので貸すと、今度は「硫泉水」と書いて、これはどうだ、とスチュワーデスに見せる。スチュワーデスは当然何のことかわからず、さすがに私もこれは何だかよくわからない。スチュワーデスはまたひとつずつ「これ?」と聞くがなかなかあたらない。お互いめんどくさくなって、ウーロン茶で妥協点を見出していた。ウーロン茶を飲みながらおいさんは私に硫泉水が何のことか一生懸命説明しようとする。飲水と書いて、これと一緒だとジェスチャーしたのを見てようやく硫泉水がミネラルウォーターのことだとわかった。
 朝飯のときも、どうやらおいさんは私が頼んだ紅茶をほしかったらしいのだが、勘のよくないスチュワーデスはまた「これ?」と一生懸命聞いている。米系の航空会社だったら、太ったおばはんスチュワーデスがどでんと現れて、客の言うことを大雑把に解釈して適当なものを出すのが普通だが、こうやって真面目に答えようと努力するところは日本人的なサービス精神のいいところだなと好感が持てた。しかし、残念ながらおいさんが受け取ったのはコーヒーであった。おいさんはちょっとすすると、「うげ~、こりゃコーヒーだ」と中国語で言っている。苦笑いしながらコーヒーをすすってはうげーとやっているのがやたらに可笑しい。
 朝食も終わり、あと一時間ほどで到着というところで、おいさんがまたペンを貸せといってくるので貸すと、「着時間」と書いて、着くまでどれくらいなのかを聞いてきた。なので今の時間と予定到着時間を書いて返すと夫婦でうなづいている。いろいろとやり取りを助けてあげたのがうれしかったのか、おいさんはおばはんに「謝謝ごにょごにょ」と言っている。おばはんの返事を聞いてまた紙に何かを書くと、私に「サンキョウ」と言いながら「謝」と書いた紙を見せてきた。なんかちょっとうれしかった。あまりに何度も助け舟をだす羽目になったのでスチュワーデスにも「中国語お分かりなんですか?」と聞かれる始末である。そんな感じで、長い道中、変なところで楽しませてもらいつつ、乗り換え含め合計20時間ほどで日本にようやく到着した。