Dr. William Lee講演

10/15(水)に、”Multimedia-based Instructional Design”(邦訳:「インストラクショナルデザイン入門」)の著者のDr. William Leeの講演があったので参加した。彼はPenn StateのINSYSプログラムの卒業生で、大学からOutstanding Alumniの賞をもらって記念講演をしに来たそうだが、公式行事の前に、INSYSの人々向けに1時間の講演をしてくれた。ちょっと早めに会場に着いたら、Dr. LeeとDr. Dwyerが二人だけで談笑していたので輪に加わった。ぼくが日本人だということを知ると、「インストラクショナルデザイン入門」が出版されたことに触れた。もちろん知っている、日本ではIDの参考書はあまり出ていないのでみんなあなたの本で勉強していると思うよと話すと、シンガポールや中国あたりでも出版されて、他にも数国で翻訳される予定があるとか。
講演の内容は、アメリカン航空の教育コンサルをやった経験を交えつつ、IDだけでは企業の文化の壁を越えた組織改革はできないという話だった。教育研修が解決策にならない場合でも、企業の経営者は研修で組織を変えられると考えている場合があるが、そうでない場合が多い。アメリカン航空は立派な研修施設を持っていたが、オンライン教育の導入は逆にその施設があることで導入が遅れた。デルタは逆に数年前に情報システムの基盤強化に資金投入していたおかげでそのインフラを使ってe-learning導入を低コストで行なえた。すぐにその差が歴然となった。研修に金を使う意欲が経営者にあっても、経営者の考え方が必ずしも合理的でない場合もあり、その場合は教育研修が解決策として機能しない。教育研修の精度を高める方向ではなく、組織変革を主眼にした別のアプローチを取る必要がある、ということだった。
Dr. Leeのような実用的なID書の著者でも、IDよりももっとマクロレベルの変革アプローチが必要という考えを持っているのは興味深かった。IDの研究者でそうした考えから、Instructional System Designだけでなく、よりマクロなEducational System Designにシフトする研究者がけっこういるのだけど(Dr. Reigeluthはその代表格)、Dr. Leeも同じ考えを共有するID者なのだ。
休憩を挟んで、後半はDr. Leeの著書、”Multimedia-based Instructional Design”の改訂版に付録でつくCD-ROMに収録されたID者支援ツールの紹介が中心だった。適切な学習目標を書けない研修担当者が多いので制作したという「Learning Objective Genelator」他いくつかの便利なツールのデモをしてくれた。いずれもフォームに情報を入れると、IDの作業に沿った形で結果を返してくれるというツールだった。本の付録にしてはよくできていて、けっこう使えそうな印象だった。ID者支援ツールの開発というのは、ぼくもとても興味があるので近いうちに一つ作ってみたいと考えているところだ。