「道路の権力」

 猪瀬直樹の 「道路の権力」を読了。息抜きに読むつもりが、とまらず一気に読んでしまった。猪瀬直樹は少し前からじっくり読みたいと思っていたのを、今回の新刊と冬休みが重なったおかげで読むことができた。この本は、著者の意図通り、「剣はペンよりも強し」を体現した力作であり、言葉や論理を武器に仕事をする人にはぜひ勧めたい。道路公団民営化推進委員会のやり取りの中での、合意形成と対立のプロセスが詳細に記されている。猪瀬氏がデータと論理で官僚組織に立ち向かっていく過程には迫力があり、言論で仕事をするということがどういうことなのかを知ることができる。また、システムに変化を起こす時に立ちはだかる障壁がどのようなものかを知ることもできる。
 委員会の場では、意見書の文言を決めるのに大変な時間を割いていることがわかる。合意も対立も、意見の文言をどうするかという点が焦点になっている。意見書の項目の順番を決めることで大議論をやり、「凍結する」を「凍結を含めて検討する」という表現に変えることで合意を取り付ける、といったやり取りが続く。その文言のニュアンスの捉え方ひとつで、言葉が伝えるコンセプトが変わり、政策がまったく意図しないものになることもあるため、一字一句を見逃すことができない仕事だったということがわかる。そうやって委員が苦労して練り上げた意見書も、結局は政治の力関係で強い方に都合よく解釈されて利用されてしまう。そうした現実はこうした委員会方式の限界を示しているが、それでも猪瀬氏の主張のように、獲得できたことを評価すべきだろうと思う。政治力がない中で、理詰めでここまで立ち向かって成果を勝ち取ることは普通は期待できない。猪瀬氏が相当無理をしたのであって、無理をせざるを得なかったのは、政治力を発揮して彼を支えるべき存在が機能していなかったためだろう。
 この本から、社会組織を変えていこうとすると、こういう利害対立に必ず遭遇する、ということをあらためて認識させられた。今の自分のキャリアをそのまま行けば、きっと少なからず似たケースに出会うと思うので、その時にはこの本を読んだことが何かの役に立つかもしれない。