IDの専門知識とは、講座や教材開発のための理論やテクニック、モデルであり、それらを必要に応じて使い分けるところに専門家としての付加価値がある。しかし、実際には、そうしたテクニックやモデルの知識は、論理思考力とコミュニケーション力がベースになってないと実際の仕事には役に立たない。言い換えれば、IDの専門知識よりも、その人の論理思考力とコミュニケーション力の方が、仕事の成果に与える影響は大きい。
大学院でも、論理思考力の高くない院生はいかにIDの手法を学んでも、出せるアウトプットはたいしたことはない。逆に、論理思考力があれば、多少の知識の不足はカバーできる。他分野の専門家と共同作業する場合は、きちんとコミュニケーションができないと、いかにIDを学んでもいい仕事はできない。なのでIDを教えるプログラムでは、この論理思考スキルとコミュニケーションスキルを磨く機会を提供することが必須だと思う。Penn StateのINSYSプログラムでは、そうした講座は設置されていないが、その代わりにリサーチプロジェクトの講座の割合を増やすことでこれに対応している。本格的なリサーチプロジェクトを経験する過程で、そうしたスキルを高める機会を得るという社会構成主義的なアプローチだ。それもいいのだけど、そのアプローチを機能させるためには、必要なときに参照できるリソースが十分に提供されなければならない。残念ながらそこはあまりケアされていないので、学部を出てすぐの若い院生には少々レベルが高すぎるきらいがある。
もし自分がIDに関するプログラムを組む立場になったら、まず基本に置きたいのは基礎的な論理思考スキルやオーラルコミュニケーションスキルやライティングスキルを補うための講座だ。そうした基礎講座の内容は、当然インストラクショナルデザインの現場と関連付けたものにする。そうした講座を先に履修することで専門知識の習得も効率がよくなる。
つまるところ、一番そういう講座が必要なのは自分だったりするのだが。いずれ短期のワークショップ案でも作ってみたい。