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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第41号)

発行日:平成15年5月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 町長さんの問い

2. 教育特区追加構想への三つの感想

3. 追試の不可欠−批判精神の貧困

4. 第22回大会総括   「継続」と「力」−「革新」と「伝統」

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

お知らせ

第35回生涯学習フォーラム

日時:6月21日(土)15時〜17時

場所:福岡県立社会教育総合センター

テーマ:子ども会ー青少年グループの活性化

発表者:今村義隆さん(春日市立春日小学校)

参加論文:「子どもの活力向上プログラムの創造ー5Wと1H」(三浦清一郎)

フォーラム終了後センター食堂にて夕食会

事前参加申込みをお願い致します。(担当:肘井)09ー947ー3511まで

 

編集後記 

伯耆大山とセーラー服

   鳥取県生涯学習センターの社会教育関係職員の研修会は倉吉市で行なわれた。筆者は岡山−米子経由で最後は鳥取行きの快速列車に乗った。通学時間にあたったのでホームには多くの高校生がいた。今時の若者は総じて不作法で喧しい。メロンパンを噛みながら、携帯を振り回してガハハと大笑いするセーラー服には幻滅であった。うるさい、軽薄、下品で、危険でもある。彼等の多くは人生の時を費やすに値しない。話してみたいという気は起らない。こちらの短気が暴発する危険もある。さわらぬ神に祟りなし、とできるだけ彼等の群れを避けて、列車の奥の一角に座った。

   ところがである。一人のセーラー服が静々と来て黙礼して向いに座った。瞳が輝いて遠くを見ている。1冊の本を取出して読み始めた。詩集のようである。頬杖をついても、あくびをしても仕種に品がある。長旅で些か草臥れた旅人に神様は久々に美しい風景を恵んで下さったのであろう。車窓には大山が薄暮に紺青の雄姿を浮かべている。富士には月見草が良く似合うそうだが、大山には詩集のセーラー服が良く似合う。

    隣の席から完全装備のすごいカメラのおじさんが突然声を掛けて来た。「窓の向こうの青い山は大山ですか」、と問う。旅は人恋しいのであろう。「そうだと思います、そうですよね!」と思わずセーラー服に同意を求めた。にこやかに返事が返って来た。「そうです。手前が○○山、その後ろが大山です。」

   そこから思いがけず至福の時が始まった。列車は米子−大山ー赤碕−浦安と停まる。彼女は赤碕で降りるという。高校3年生である。

   しずやしずしずのおだまき巻き返し昔を今になすよしもがな 

   自分も40数年前のシャイな高校生に戻ったような気がした。彼女は私の愛する詩人達の名前を知っていた。夏休みには友人と東北を歩いてみたいのだという。

   ふるさとの山に向いていうことなしふるさとの山はありがたきかな

   そういえば自分も啄木のふるさとを歩いたことがある。セーラー服も大山も遥かに霞んでいる。最後は「さよなら」と微笑して後ろ姿が赤碕駅に消えた。その空白の寂寥は埋めようがない。過ぎた日々は帰らず、人生は常に「不帰」である覚悟はあるが、久々に胸が締め付けられるようであった。教育は「不易と流行」をいうが、彼女は間違いなく「不易」の女学生であった。いかにして現代に生き残り得たのか?御両親はどんな教育を為さっているのか?30分の神の贈り物であった。

   列車は定刻に倉吉に着いた。岩垣さん、北村さんなど鳥取県の懐かしいお顔が待っていて下さった。夢のひとときが終った。

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