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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第41号)

発行日:平成15年5月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 町長さんの問い

2. 教育特区追加構想への三つの感想

3. 追試の不可欠−批判精神の貧困

4. 第22回大会総括   「継続」と「力」−「革新」と「伝統」

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

追試の不可欠−批判精神の貧困

   先日、教え子が講演会のちらしを届けてくれた。タイトルも提示されたデータもショッキングだったからであろう。主宰はNPO福岡県レクリエーション協会である。講演者は日大教授の森 昭雄氏、演題は氏の同名の著書(NHK出版)にちなんで「ゲーム能の恐怖」である。提起された問題は重大である。TVゲームで遊んでいる時の子どもの能は森氏が工夫した脳波計の測定によると痴呆老人の脳波と同じ状態になるという。ちらしにはその測定グラフが提示されている。”また、前頭葉野の能活動をあきらかに劇的に低下させるものが多いことがわかってきました”とちらしにある。

   事実であれば子どものTVゲームは禁止しなければならない。麻薬に近い害毒であろう。ことが重大であるだけに第3者による「追試」が必要である。

   筆者も17〜18年前、「遠視」は人を凶暴にしがちである、という調査結果に接したことがある。刑に服している粗暴犯や暴走族の視力検査をしたらほぼ例外なく「遠視」であったというデータも見せられた。生涯学習実践研究交流会でも発表していただいて多くの人々の注目を集めた。調査者はこの件に関する書物も出版していた。結論的には、学校の定期健康診断に「遠視」検査を含めるべきであるという問題提起であった。「遠視」では落ち着いて勉強などできるはずは無いという論理であった。調査結果に遺漏が無ければ、ことは重大である。上京のついでに当時の文部省を尋ねて青少年課長に事の次第を報告する一方、校医をやっていた知人の眼科医にお願いして、「遠視」と挙動粗暴の関係を調べてもらった。結果は上記の問題提起を正当化する根拠は見つからなかった。今にして思えば、これほど重大な結果を世間に公表する以上、なぜ第3者の協力を求めて「追試」をしなかったのか。惜しまれることである。

   アメリカのラルフ・ネーダーが指揮した運動が先べんを付けたように、消費者協会や「暮らしの手帳」が特定の商品機能を「追試」しているように、生涯学習分野にも「追試」が不可欠である。それは「批判精神」の具体化である。私が愛読した古代史の著者古田武彦氏は日本の学会が彼の論理をことごとく無視していることを何度も著作の中で指摘しているが、それが学閥の「厚顔」であり、研究者養成における徒弟制度の「毒」なのであろう。若い研究者が自由な批判精神を持つことが許されないのであろう。古田氏は日本の古代は権力が分散した「多元王朝国家」であったことを数々の証拠と論理をもって説明している。しかし、私たちの前に語られる歴史は大和朝廷ー天皇主義の一元史観でしかない。誰も古田論の「追試」をするものがいないのであろう。誠に情けない学問状況である。最近、福岡の土器の付着物の年代鑑定結果が出て、弥生時代を500年も遡らせる事になった。「追試」の成果であろう。日本が世界に尊敬されないのは、国際貢献が足りないからだけではない。主体性が欠けているからだけでもない。指導者の言論に論理の厳密さが欠如しているからである。NHKBSの外国ニュースを見ているとそのことを痛感することがたびたびある。

  国会では各党の幹部がようやく自分の言葉で語り始めたばかりである。地方議員などはどのような状況にあるのか。仄聞する話は誠におぞましい。選挙は残念ながら議員の「追試」にはなっていない。地方議員のあり方を見て、来るべき地方分権が恐ろしいと思うのは筆者ばかりではあるまい。

     生涯学習の実践研究交流会は新しい実践を学ぶ場所であり、追試の機会を追求する場所でもある。国の機関も、大学もその任務の一部を現行プログラムの「追試」に割くべきである。現在注目を浴びている学校選択制も、土曜教育力も、生活体験学校も、通学合宿も、キャンプも、挑戦のウオークラリーも反復される「追試」によってその精度が高まって行くはずである。結果的に教育論理にも隙がなくなる。外国の教育モデルにも学ぶべきものが多々あるが、国内で追試されることが少ないので活用する機会を逃している。  

  いかなる論理も、いかなる調査も、「追試」の結果を見るまでは鵜呑みにしてはなるまい。

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