コンテンツ開発のための非営利資金確保の話(2)

 引き続き、非営利資金確保の話題で、今度は少し視点を変えて教育機関関連の話。
 まず、米国のチャータースクールの資金調達は、不景気な中でも落ち込まずに順調に推移しているというニュース。米国のチャータースクールの運営には、寄付や助成が運費の重要な資金源になっているが、景気悪化で落ち込んだ2009年度にも、チャータースクールへの寄付は増加傾向を続けていたことが調査結果で明らかになった。オバマ政権の教育予算や非営利財団の支援を受けてチャータースクールの設置数は全米で軒並み伸び続けている。
Despite Tough Funding Environment, Charter Schools Gain Momentum
http://foundationcenter.org/pnd/news/story.jhtml?id=323200011
 次も同じような話で、2010年度(09年7月~10年6月)の米国の高等教育機関への寄付が11.9%伸びて回復傾向にあるという調査結果が公表された。National Association of College and University Business OfficersとCommonfund Instituteによる調査で対象となった850大学からの回答で、09年度に落ち込んだ寄付が戻ってきたことが示された。09年には予算不足で学部の閉鎖に追い込まれるなどの不景気なニュースが続いたものの、一番厳しい状況は脱した様子。11年度前半もよい状況は続いているようで、さらなる回復に期待しているというコメントも出ている。たしかに教育工学系の大学教員公募のアナウンスも一時期ぱったり途絶えていたのが、最近求人情報が流れているのを目にするようになったし、そういうところからも状況改善の様子は伺える。
Educational Endowments Grew 11.9 Percent in 2010, Study Finds
http://foundationcenter.org/pnd/news/story.jhtml?id=324000006
 最後におまけで、大学スポーツと寄付集めの話。僕の留学先だったペンシルバニア州立大学(ペンステート)のスポーツビジネスの稼ぎ頭であるアメフトチームの寄付獲得のニュース。
 ペンステートのアメフトチームを率いて45年、大学アメフト界の「生ける伝説」として知られるジョー・パターノ監督が昨シーズンで通産400勝を達成した記念として、ナイキが同大学図書館に40万ドル寄付を贈った。
http://live.psu.edu/story/51057
 パターノ監督は、大学図書館の支援に積極的で、寄付キャンペーンを行って図書館の拡充に長年貢献してきた。個人でもすでに大学に累計400万ドルも寄付しており、大学図書館への寄付集めに貢献したことを称えて、拡張した図書館は「Paterno Library」と命名されるなど、パターノ監督が活躍すれば大学の寄付につながる流れが確立されている。
 ペンステートの放送局PBSが開催したチャリティオークションで、パターノ監督が400勝目を挙げた試合で着用していたネクタイの直筆サイン入りが約1万ドルで落札され、この他にもパターノ監督のフォトフレームやアメフトチーム関連グッズが高額で落札されたというニュースもあった。ペンステートのアメフトは大学スポーツ興行として成功していて、毎試合10万人以上の観客を集め、卒業生向けサービスにもしっかり組み込まれていて、大学スポーツ興業に絡めた寄付集めのキャンペーンが定常的に行われている。
 ・・・と、いくつか米国の非営利財団の支援活動や教育機関への資金の流れのニュースを見てきた。単にバラマキ予算を確保する話ではなくて、みんな苦労して付加価値をアピールして、必要な活動資金を集める活動がその背景にある。営利的には採算が合わなくても、大事だと思う活動を支援するための資金を確保するために、賛同したくなるような事業の企画を練って、資金のある主体へ働きかけをしていることが伺える。
 こういう話を聞いても、アメリカは非営利の資金規模が大きいからいいよね、とか、日本の大学でもそんなのとっくにやってるよ、とか、日本の大学スポーツなんて貧弱だからね、などと片付けられがちなのだが、残念ながらそういうレベルの話で納得していてはいつまでたっても状況は改善しない。派手さに目を奪われて、背景や状況を考えずに表面的に枠組だけ真似てもうまくいかない。
 米国にもそういう状況がはじめからあったわけではないし、資金が回っているところでは、みんな激しく資金獲得競争をしている。ロビイストは山ほどうごめいているし、金持ちのところには寄付の要請ラッシュが押し寄せるので、一度資金をおさえたからと言って、その先ずっと安泰ではない。価値を打ち出せないところは厳しくなればバッサリ予算カットされるし、知恵を出さないで金出せと言っている人のところには金は回らないので、決して楽ではない。
 金融危機の影響で、当たり前に流れていた資金が詰まるという状況があちこちで起きたが、そのこと自体は必ずしも悪いことばかりではなかったと思う。当たり前に同じルートからお金が入ってくると、そのルートからしかお金を確保できないと思ってしまいがちだし、気が緩みがちなのが人の性分だ。米国にももちろん「人は低きに流れる」状況は普通にあるし、放っておけば腐敗も起きるから、それを前提にした評価システムが組まれている。
 経済が悪くなって研究や活動のための資金が足りないと嘆く向きはあるわけだが、それは既存のルートが細っていてパイが小さくなっているから仕方がない。外に目を向けて、知恵を絞って付加価値を示していけば、まだまだやりようはあるわけで、その努力をやり尽してはいないと思う。少なくとも自分自身への戒めとしては、どんな立場になっても不遇をあれこれ言い訳をする前に、他にやれることはないか、もう一歩可能性を探るだけの真剣さは持ち続けたい。