今週はこのペンシルバニアの田舎街まで、はるばる日本から来客があった。日本のインストラクショナルデザイン研究の第一人者の鈴木克明教授はじめ、熊本大学教授システム学専攻の研究者の皆さんがペンステートのインストラクショナルシステムズプログラムを訪ねてきてくださった。
2年前の専攻の開設直前にも一度来ていただいていて、今回は2回目になる。今回は同専攻が2年経って修士プログラムが一巡した段階で、さらにオンラインで博士課程もこの4月から開設されるということで、こちらの教員や院生たちも興味を持って訪問団を迎えた。熊本大学での取り組みを紹介してもらうセッションを行い、当プログラムの教員や大学のコースマネジメントシステム、オンライン大学の担当部署のマネージャーなど、さまざまな人たちと3日間で10数件のミーティングが行われた。
当プログラムの教員にはほぼ全員会っていただいて、従来のインストラクショナルデザイナー教育のなかで最近の学習科学の研究をどう位置づけて扱っているのか、オンライン教育における教育の質の問題などのテーマで密度の濃いディスカッションが行われた。特に学習科学の話は、ちょうど前に書いたように、うちのプログラムでも関心の高まっているタイミングだったのでホットな話題だった。
日本からのはるばるの訪問ということを聞いて、普段はなかなか会う機会の作れない著名な教授にも会うことができた。HRD分野ではたいへんに著名で、ワークプレイスラーニングやパフォーマンスマネジメント、タレントマネジメントといった日本でも関心が高まっているテーマではよく引用される、Dr. William Rothwell を訪問して最近の著作や中国の外資系企業での研修などの話を聞かせてもらった。ありがたみがわからないとは恐ろしいもので、この6年近くの間、いつもうろうろしている同じフロアにこんな著名な研究者がいるとは知らなかった。彼の研究室は最近引退したDr. Frank Dwyerの部屋に移っていたので、前よりも勝手のわかるアクセスしやすいところに彼はいたのだが、全くその恩恵を得ていなかったことを痛感した。彼の話も留学してすぐの頃に聞いていれば、その後の進路もだいぶ違うものになっていたかもしれないなと考えさせられた。ペンステートは、教育学分野でも充実したプログラムをそろえていると評価されていて(ランキング一覧、教育工学分野は主要なランキングで扱われてないのでうちのプログラムは残念ながら載ってない)、この大学の研究者人材の豊富さにあらためて舌を巻く思いがした。
それにもう一人、遠隔教育分野で世界的な研究者として知られるDr. Michael Mooreにも面会できた。彼とは何度か会ったことがあるのだが、やはり日本でオンライン教育を実践されている人たちとの話ということだと聞ける話が違うので楽しかった。彼に限らず、研究者たちの話は普段とは違うところがあり、今まで授業やプロジェクトで接してきたこととは違う側面で話が聞けた。これは教育学でいうところのヒドゥンカリキュラムのようなもので、そういう意味では案内した僕自身が相当によい経験ができた。もっと早くに聞きたかったなという話もあるが、早ければその重要さを理解できなかったかも知れないし、もっと後に聞けばもっと違ったありがたみがあるのかもしれないし、なかなか難しい。結論としては、そういうよい機会を継続的に提供できる環境を作れば、タイミングの問題は重要度が下がるので、よい経験ができる機会を増やす方向で考えるのがよいのだろう。そういう意味ではペンステートがその環境が提供されているのは間違いない。
ペンステートの各オンラインプログラムでも、博士課程のカリキュラムはこれからそろそろ動き出そうかというところなので、熊本大学はその面では先を行くことになる。また数年後にその成果を持ってこちらの研究者たちと話ができる日が来れば、さらに楽しいことになるだろう。
熊本大学ご一行は、この後の目的地へ出発され、現在取り組まれている大学院改革支援プログラム(特色GP)のプロジェクトで、カリキュラムや教育情報システムの国際共同開発を進めるとのこと。日本では他のどこもやっていない取り組みで、こちらもどんな展開になるのかとても楽しみだ。