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生涯学習通信

「風の便り」(第57号)

発行日:平成16年9月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. Second Stage: 「寺子屋」パイロット事業の第2段階−汗の結晶と政治家の英断

2. 「寺子屋」事業総合化計画の手順と方法(案)

3. 「教育の無い保育」と「保育の無い教育」

4. 二つの質問−生涯学習の幸運

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

Second Stage:
「寺子屋」パイロット事業の第2段階−汗の結晶と政治家の英断

子育て支援の「寺子屋」プログラムがパイロット事業の第2段階に入る。「実行委員の汗」と「政治家の英断」の結果である。
昨年、小さな町の「男女共同参画懇話会」の議論と調査は、ささやかな「行動計画」にまとまった。家事も、育児も男女の共同が理想であるが、掛け声ばかりの「変わりたくない男」は当分変わる事はないであろうという結論に達した。それゆえ、子どもを育てながら働こうとする女性を支援するためには、「養育の社会化」が最重要の施策である。にもかかわらず、地域社会の実態は、「子どもの居場所」も満足に整っていない。子育て支援の研修や情報の提供、子育て相談等々の事業は散発的に行われているだけであり、必要な人に届いていない。これらの事業は基本的に「間接支援」である。それゆえ、関心がなければ選択しない。意識がなければ探さない。したがって、選択しなければ必要な人に届かず、親が理解しなければ子どもには届かない。「間接支援」が役に立たないのはそのためである。「関心の無い人」こそサービスが必要である。「意識も自覚もしていない人」こそ支援の対象でなければならないからである。
   そこで本年、懇話会は子どもを直接指導する寺子屋方式を実践することになった。実行委員会が送ったメッセージは次の2点である。「子どもを預かってもらえば楽ですよ」。「子どもはしゃんとして、元気になりますよ」。
   実行委員会は前年度の準備段階から汗を流して手探りの活動を作り上げた。苦労した甲斐あって、流した汗を上回って人々が実感した成果は大きい。保護者から寄せられた評価も大きい。それが町長さんの「政治的英断」と結びついた時、一気に展望が開けた。以下は寺子屋パイロット事業の第2段階計画である。

◆  寺子屋パイロット事業の時代診断
   「寺子屋」事業を可能にする政治的背景は少子化と財政難である。二つの課題に適切に対応できれば、子どもが元気になり、熟年が元気になり、結果的に女性も元気になる。最終的に、地域が元気になる。女性も、熟年も選挙権がある。前号に書いた通り、寺子屋事業は選挙に勝てる生涯学習施策なのである。町長さんのアンテナは正確に事業のメッセージをキャッチしている。
  要約すれば、地域社会の問題は以下のように進行する。

 (1)  少子化が継続すれば→生産人口が縮小する→税金を払う層が少なくなれば、福祉システムの前提が崩壊する
 (2)  子どもの「生きる力」が衰退すれば→親も、学校も苦労が絶えず→未来の日本社会の前提が崩壊する
 (3)  熟年の「生きる力」の保持・存続に失敗すれば→「介護」と「医療」の財政破綻によって現行システムが崩壊する

  その解決策は「寺子屋」事業の推進によって、以下のように進行する。

(1)  子どもの元気は「寺子屋」の活動が支える
(2)  「寺子屋」の活動は熟年が支える
(3)  熟年の活動は熟年自身の心身を維持する
(4)  「寺子屋」活動は「保育」と「教育」の同時進行を果たし、家族の安心と安全に寄与する
(5) 子どもの元気は女性の元気と地域社会の元気につながる
(6)  地域の感謝が熟年の自尊感情を支える
(7)  熟年の元気は「介護」費と「医療」費を節減する
(8)  「幼老共生」は「子育て支援」と「介護予防」と「男女共同参画」を同時に推進し、地域の活力を復活する


◆  第1段階の反省
   パイロット事業の第1段階はいまだ進行中であるが、実行委員会は保護者の感想、子ども達の評価、「有志指導者」の意見、自らの実感などを総合して、中間の反省点をまとめた。実践の結果、「保育」と「教育」の同時進行は可能である。とりわけ「有志指導者」による指導効果は極めて大きい。課題は4つある。箇条書きにすれば次の通りである。

 (1)  第一課題は学校の開放である。居場所が無ければ活動はできない。居場所は安全で、安心で子どもが慣れ親しんだところが最適である。最も安全で、最も経済的で、最も子どもの活動に適しているのは学校である。「寺子屋」事業の第一条件は通常教室以外の学校施設の自由使用である。

 (2) 第2は熟年ボランティアを中心とした「有志指導者」の確保である。人数は参加児童と同数程度、研修を充実し、指導の「空気」を醸成することが肝要である。ほとんどの指導者はプロではない。ボランティアである以上、指導は労働ではない。カリキュラムは指導者の都合と能力によって制約される。しかし、子どもは多様な評価に出会うことができる。多様な指導に出会うこともできる。何よりも指導者ご自身がお元気になる。熟年指導者こそが「寺子屋」の「目玉」である。

 (3) 第3はすべてのプログラム準備に関わる事務局体制の強化である。「寺子屋」劇場の主役は、子どもと熟年「有志指導者」である。事務局は「黒子」である。「黒子」が大事なのは歌舞伎に限らない。事務局は研修の裏方を務め、カリキュラムの原案を作成し、活動場所の交渉に奔走し、機材管理の責任を果たし、指導者の配置計画をたてる。当然、指導者の指示によって材料や資料をそろえる。保護者の連絡も大仕事である。連絡帳も「寺子屋通信」も事務の仕事である。弁当の管理も、来訪者の応対も、熱の出た子どもを医者に連れて行くのも、事務局の仕事である。第1期パイロット事業はこれらをたった一人でこなした。実行委員が異口同音に指摘したのは、「事務局の強化こそが政治の仕事である」、という点であった。

 (4) 第4は役場内に分野横断型のプロジェクトチームを編成する。

  「寺子屋」は従来の「学童保育」の役割を果たす。様々な形態の「子どもの居場所」事業の機能を拡充する。活動には学校施設を使う。有志のボランティアの募集/研修/登録/配置を行う。それゆえ関係する役所内の部署は様々な分野にまたがることになる。バラバラでは良い仕事はできない。調整に失敗すれば子どもの安全がかかっている。意志の疎通と共同事業の実施のため、分野横断型の「プロジェクトチーム」が必要である。これもまた政治のリーダーシップが問われるところである。

  実行委員会の議論を踏まえて筆者は「寺子屋」事業総合化計画の手順と方法(案)を提出した。町長さんは即座に英断を下した。これから次年度に向けての準備作業が始まる。以下はSecond Stageに向けての基本哲学と青写真である。
 

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