ASTDエキスポの話

 ASTDが終わった翌週も、ASTDのエキスポ出展企業から期限を逸した「ドボンDM」が何通か届いた。郵便事情などの不運な影響もあると思うが、気の毒なことにこれらのDMは何の役にも立たない。仮に1通30円くらいしかかからないとしても、安いからいいやという気持ちで場当たり的に送られたDMは、ちょうど狙ったタイミングに届いたとしてもたいした効果はないし、どうせほとんど読まれない。
 今回初めて訪れたASTDのエキスポは、想像以上に規模が大きくて、にぎやかな印象を受けた。広い会場に連なる企業出展ブースでは、いろんなサービスや製品を紹介していた。製品パンフレットやデモを展示しながら、会社のロゴの入ったシャツを来た説明員たちが熱心に話をしていた。


 あちこちのブースで、そんなの配ってどうするんだろうという感じのノベルティグッズが配られていた。iPodやWiiのプレゼントへの勧誘も、大手でも小さなところでも行われていた。客寄せにWii Sportsが設置されたブースも結構見かけた。いずれも説明員が暇つぶしに遊んでいるだけで、目的とする客寄せには失敗しているようだった。冗談半分で「あなたの会社はWiiを使ったトレーニングを提供しているのか?」と何社かで尋ねたら、バツの悪そうな顔をして言い訳をしたり、ムッとしたり、冗談で返してきたりで、それぞれの反応が面白かった。
 この辺のトンチンカンさは昔からあまり変わってないらしくて、「テレビゲーム教育論」著者のマーク・プレンスキーは、8年前のASTDのエキスポを次のように描写している。

・・・(ゲームエキスポのE3から)ちょうど一週間後のダラスにて。米国人材開発機構(ASTD)の年次国際会議の会場。展示フロアの広さはE3の十分の一以下で、E3の大ホール一つ分にも満たない。多くのブースは最小の1.2×3.2mサイズで、その十倍を超えるサイズのものはない。音楽やかっこいい照明なんてない。ノイズはなく、行列もない。ダンス嬢なんてもちろんいない。活気は弱く、E3の50分の1以下だろう。場内の人の数もたぶん50分の1くらいで、多くは30代から50代で、小さなブースとブースの間をものすごくゆっくりとした速さでぶらぶらと動いている。行列はどこにも見当たらず、ところどころのトレーニング小道具を売るブースで、奇妙なポインター、鳴物、ボールといった、ここでは「楽しさ」に一番近いものに少しだけ人の群れができているのが見える。会場の隅の方に、プレイステーション(2じゃなくて1)が一台置かれ、そこで売っている製品とは全く関係ないレーシングゲームでねらった客寄せに失敗している様子である。別の展示では、小さなロッククライミングの壁と、高価そうな未来風の椅子と3Dヘッドセットで来場者の関心をひいていた。しかしわざわざ登録申込をして列に並んで見てみると、スクリーンの前に立って(下手くそに)台本を読む男性の3D画像が見えるだけである。この会場で過ごすには、何杯ものコーヒーと、チョコチップクッキーと、歩きやすい靴が必要だ。・・・
(Marc Prensky (2001), “Digital Game-based Learning”, p12)

 規模的にはもう少し大きい印象を持ったが、後はまったくこんな感じだった。別に派手にやる必要はまったくないのだが、的外れな客寄せや販促が目立つのは以前から変わっていないらしい。おそらく何とか人目を集めたいと考えての必死の策なのだと思うが、的を外しているところが多かった。コストをかけて借りたスペースに、さらにコストをかけて大型液晶テレビやWiiで遊ぶために余計にスペースを使って、役にも立たない名簿集めのために自社の商品と関係のない抽選会をやっている。来場者は、その企業の製品やサービスに興味があるのであって、その興味に直接ヒットしないようなおまけや余興をいくら充実させても基本的には意味がない。
 世の中はWeb2.0時代だ何だと騒がしいのだから、ここでも何か新しい手法で販促をやっている企業もあったりするのかと思ったが、そうでもなかった。事前に参加者に配られていたたエキスポカードのおかげでいちいち名刺を渡さなくてもスキャンすればよくて、それが便利で感心したくらいで、あとはたいして目新しいことはやっていなかった。何かもう少し気の利いたことをやれそうな気もするが、みんなそういうものだと思ってやっているのか、危機感のなさそうな感じだった。
 もちろん、全部ダメダメだと言っているのではなくて、このエキスポの場をうまく活用して販促を行っている感じの企業もたくさんあった。どのブースでも、みんな一生懸命やっているのが伝わってきて好感が持てた。同じ出展スペースでもいろんな使い方があるし、トレーニング業界にもいろんな企業があるのだなと考えさせられた。