ゲーム脳と脳トレ

 毎日インタラクティブに「脳研究:「ゲーム脳」、「脳トレ」 どっちがホント?」という記事が出ていた。
 この話はすでに科学的にどちらがどうという話ではなくなっていて、森氏も川嶋氏も研究の一部を切り取られて、利用する側の都合の良いように取り上げられているところがある。森氏は先日の毎日新聞のインタビュー記事で「ゲームが良い効果を与える可能性もある」と、最近のDSブームの影響もあってか、だいぶ矛先を緩めていた。ところが、この記事では「最近になって「ゲームはいけない」との主張を「1日15分なら大丈夫。共存も考えなければ」と変えた。こうした一貫性のなさも不信を持たれる一因だ。」などと書かれている。脳トレブーム過熱を取り上げる趣旨はわかるものの、ようやく下火になってきたゲーム脳の話をまた引っ張り出してきて、こういう風に煽って森氏を追い込むのはどうかと思う。
 PTAや教育委員会など、「ゲームが脳に悪いという話を聞きたがっている人々」は、ゲームに理解を示す森氏の講演など聞きたくないのであって、そんな聴衆の期待に応えようとすれば、森氏も自分の主張の一番濃いところを話さざるを得ない。ゲーム脳はもはや森氏の講演のネタでしかないのであって、科学性云々を議論するところにゲーム脳の話を持ち込むのはすでに意味がなくなっている。
 「脳トレ」の方も、ビジネスの具になってしまってからは、すでに科学の話からは逸脱してきていて、科学的正しさは論点ではなくなってきている。煽っているのは科学者の方ではなく、それを利用するビジネスの側の人たちである。もし仮に脳トレの効果はないという研究結果が出てきたとしても、その結果がファイナルアンサーではないし、川嶋氏の研究結果を全て否定するものでもない。「納豆を食えばやせる」というようなレベルで盛り上げている方とそれを真に受けている方に問題がある。脳トレでできる程度の脳の活性化は、他にもやりようがあるなかで、川嶋氏は一つの方法論として学習療法を提唱しているに過ぎない。提唱している側が過熱しているのではなく、取り上げる側が過熱しているだけだ。この記事もよく読めばその辺りも踏まえて書かれているようにも読めなくはないが、記事の売りを強くするために「ゲーム脳VS脳トレ」のような本質でないところに焦点が当たってしまっているの残念。
 ゲームとしての脳トレも、まだ技術としては稚拙であって、同じテーマでもデザインのやりようでもっと高度なことができる。任天堂がたったの3ヶ月で開発したものをあたかも脳トレタイプのゲームのスタンダードのようになってしまい、各社とも同じようなフォーマットのゲームをせっせと作っている。昔の学習ゲームの焼き直しのようなものを作るのでなく、より高度なものを目指さないと、せっかく形成されようとしている市場もあっという間に冷え込んでしまうだろう。