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生涯学習通信

「風の便り」(第101号)

発行日:平成20年5月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 思考の断片-想像力の散歩-中・四国・九州地区生涯学習実践研究交流会-第27回大会寸評-

2. 思考の断片-想像力の散歩 -中・四国・九州地区生涯学習実践研究交流会-第27回大会寸評- (続き)

3.  「寺子屋」の危機

4. DV法を読む-「筋肉文化」の傍証にならない

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

 「寺子屋」の危機
1  危機の原点
(1) 個人的意味,社会的意味
    しつけには個人的な意味と社会的意味があります。音楽に親しむのも,自然に親しむのもしつけの一部ですが,それは基本的に個人的な意味を追求しているのです。しかし,ルールに従い、道徳を尊重して他者に迷惑をかけないことは、社会の要請です。しつけにおいて家庭や保教育機関が共通に追求すべきことは社会的意味です。みんなそれぞれに「カラスの勝手」でしょう,というわけには行かないのです。他者に著しい迷惑をかける恐れがある時には、しつけも教育も「注意」→「叱責」→「命令」→「強制」の順序で指導を実行せざるを得ません。幼児が「迷惑行為」、「危険な行為」を止めない時は、当然、同じような厳しい指導のプロセスをたどります。何度注意しても聞かないときは叱責し、なおも聞かないときは命令し、命令を無視した時は罰を与え、最後は危険や迷惑を防止するため、子どもを物理的に強制しなければなりません。「言って聞かせて」、「注意をして」、「叱って」、「命令して」、時に、「処罰して」、「強制する」のです。最終的には,家庭裁判所や少年院の懲罰的的指導にまで行き着きます。少年法の適用基準の相次ぐ引き下げはしつけと教育の失敗の結果でもあるということでしょう。

(2) 指導には秩序の確立が前提

 「子どものやりたい放題」を許している風土を抑制しないで「就学前教育を強化」しても,「幼小連携・保小連携」を進めてもほとんど効果は上がりません。子どもの興味・関心を優先させ、子どもの欲求と子どもの主体性を混同する養育思想が変わらない限り意味はないのです。教員の「採用試験のあり方」を見直しても,「複数担任制」を取り入れても,「ベテランと新任のペア指導」を工夫しても,「少人数学級」を作っても,「親のカウンセリング」を実行しても,「管理職が学級に入っても,「学校に権限を与えても」,子どもの欲求を制限し,著しいルール違反者を厳しく処罰する原則を子どもに分からせない限り,お金と時間の無駄になります。指導の有効性を保証するためには、秩序の確立が前提になります。
  改正の方法には細心の注意を払わなければなりませんが,現行の学校教育法第11条のあらゆる身体的束縛や処罰を禁止する「体罰禁止」規程は早急に改正して,適正にして中庸な処罰方法を導入すべきです。プログラムの環境を破壊し,他の子どもの安全を脅かすような重大なルール違反者を強制的に処罰出来ない組織は組織として機能する筈はないのです。

2  保護者アンケート
-いかなる理由があっても「身体的処罰」を拒否する保護者が20%を越えました-

 平成20年度の「豊津寺子屋」は公民館大ホールの会場いっぱいに保護者と子どもを迎えて「親子説明会」を実施しました。寺子屋の方針は通常通り、目的と方法とルールに分けて説明され,保護者は「寺子屋指導の考え方と方針」のアンケートに回答して同意書を提出しました。説明のポイントは以下の通りです。

**『寺子屋』の「目的」,「方法」,「処罰の最終ルール」**

(1)  子ども達の発達を支援します。同時に、お母さんに代表される保護者の子育てを支援します。
i  支援のスケジュールは働いているお母さんを想定しています。
ii  支援の中身は「一人前」を育てることにおきます。
iii  「発達支援」の為に指導の原則と方法を共通化しています。

(2)  目標は「自分のことは自分でする」,「自分のことは自分で決める」,「異年齢の共同生活に適応する」ことです。
(3)  指導の原則は以下の3つです。
i  「やったことのないことは出来ない」→子どもが自分で試してみるよう,応援と指導をします。
ii  「教わっていなければ分からない」→指導者は「手本」を示し,やってみせて,やり方を説明し,「やらせて」みます。
iii  「練習しなければ上手にはならない」→反復と練習は「寺子屋」の基本です。
(4)  指導はあいさつ、作法、集団行動、基本生活技術など「共同生活の型」を反復練習します。
(5)  子どもが、指導者の制止にもかかわらず、指導者を著しく侮辱したり,他の子どもに危険を及ぼすような行動を止めなかった場合には「塾長」が「しりをたたく」など物理的な処罰を行います。
5年目に入って、今回の保護者アンケートの特徴は次の2点です。第1は、積極的協力を申し出ている保護者が16人もいたことです(寺子屋の実践が浸透し,理解されて来たことを喜んでおります)。第2は、いかなる理由があっても「尻を叩く」程度の「体罰」でも拒否する保護者が初めて10人(20%)を超えたということです。実行委員会では、過保護と「子ども当事者主義」が病的に進行していることを危機意識を持って受け止めています。それゆえ、新学期の「寺子屋通信」に託して次の文章を全保護者に送りました。以下は関連部分の抜粋です。

3  寺子屋活動における著しいルール違反および他の子どもに危険を及ぼす行為を止めない子どもの取り扱いについて(平成20年度「豊津寺子屋通信」第1号から抜粋)

-「同意書」提出のお願いー
 (1) 「身体的処罰」に代わる「除名措置」を導入
 3月の「親子説明会」のアンケートの結果,豊津寺子屋5年間の歴史で「いかなる理由によっても一切の体罰を受け入れない」というご意見の保護者の数が初めて二けた(12名)になりました。これまで、同様のご意見はほんの数名に留まっておりました。
 実行委員会では有志指導者への礼節や活動の安全を維持し続けるためこれまでにない危機意識を持って対処策を議論いたしました。
 その結果、「身体的処罰」に代わる「除名措置」を導入することに決定しました。
(2) しつけの出来ていない子ども,共同生活のルールを理解しない子ども
 これまでも指導者に対して「うるせえ、くそばばあ」というような悪態をつく子どもや他の子どもを危険にさらす乱暴な行為を止めない子どもがおりました。そうした子どもについては、どの指導者も厳しく口頭で対処し,時には「塾長」に限り、尻を叩くなどの厳しい対応をして指導場面の安全と規律を保って参りました。これまでもごく少数ですが,「体罰を受け入れない」というご意見の保護者がおられました。寺子屋ではそれらの保護者のご意見を尊重して、塾長による「尻を叩くこと」等の身体的処罰もできる限り遠慮して参りました。
 恐縮な言い方ながら,現代っ子の規範意識と共同生活のルールの尊重は誠にお粗末です。結果的に,集団生活における言動の抑制力は極めて不十分です。指導者を尊敬せず、指導ルールに従わない子どもの存在は,キャンプや野外活動において極めて危険です。寺子屋では,教育の専門ではない有志指導者のみなさんに,心理的な屈辱や指導上の不安を与えるわけには参りません。そのような状況の中で,いかなる理由があっても「身体的処罰」を受け入れないというご意見の方々が12名になったということは、重大なルール違反行為の抑止力が一気に低下することを懸念しております。
   (3)  無記名を「届け出」式に
 そこで実行委員会では被害を受けるかも知れない子どもの安全を守り、指導現場の規律を維持するため,「いかなる理由があっても体罰を受け入れない」とする保護者の子どもさんを明らかにして「身体的処罰」を行使しないことを決定しました。その代わり、当該保護者のお子さんが重大なルール違反や危険な行為を行った場合には、実行委員会で協議の上,「寺子屋」から「除名」する措置を講じることにいたしました。
 しかしながら、現行の「アンケート調査」は無記名で行ったため,委員会では「いかなる理由があっても体罰を受け入れない」とした保護者のお名前が分かりません。そこで,これまでの「無記名」の主張を「届け出」式に変更することにいたしました。お子様に「一切の身体的処罰を認めない」とされる保護者の方は,恐縮ですが,事務局までお知らせ頂きたくお願い申し上げます。申し出のあった方々については、実行委員会がお子様を確認の上,「塾長」に一切の身体的処罰は控えるよう指示いたします。しかしながら,指導現場の安全と秩序、有志指導者の誇りと名誉は守らなければなりません。そのため「身体的処罰」に代わる「除名措置」に対する「同意書」のご提出をお願い申し上げます。「同意書」のご提出がない場合には、他のお子様と同じように指導いたしますのであらかじめご理解を頂きますようお願い申し上げます。以下はご提出いただきたい「同意書」の様式です。

   ----キリトリ線----

          同意書

 私はいかなる理由によれ,指導上の子どもに対する身体的処罰は受け入れられません。私の子どもが重大なルール違反を犯したり、他のお子様を危険に陥れるような行為を行ったときは、実行委員会の判断によって,「身体的処罰」に代わる「除名」措置を受け入れることに同意します。
                年 月 日 
             児童氏名:_______
            保護者氏名:_______
 


 

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