先週の日経のウェブサイトの新清士さんの連載記事を読んで、いくつか考えさせられた。この新さんの連載では、毎回ゲーム産業の時事的な話題を題材にしつつ、日本のゲーム産業が抱える課題を指摘していて他の分野の人間からも参考になる話が多い。ゲーム産業に関心のある人はもちろん、他の分野の人にもおすすめしたい。
「ベーマガ2.0」が日本のゲーム産業を救う(Nikkei IT+)
http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMITew000020062008
この記事で新さんは、日本のゲーム産業を支える優秀な人材が不足しているのは、アマチュアゲーム開発者が少なくなったことが大きく影響していて、昔は「ベーマガ(マイコンBasicマガジン)」を読みながら自分でプログラムを組んでいたようなアマチュア層がいなくなったが、かたや欧米のゲーム産業はMODコミュニティなどアマチュア開発者の層が厚く、この違いが今日のゲーム産業の状況に現れていると指摘している。
言われてみれば、たしかに当時はゲーム開発は身近なものだった。「ベーマガ」を買ってきてプログラムを手入力して遊ぶのはいたって普通の光景だった。僕も中学くらいの頃には、ゲームだけでなくてパソコンの勉強もするからと親に約束してMSXやPC8801Mk2を買ってもらい、ちょっとしたプログラムを入力して走らせて遊んだりしていた。パソコン持ってるんだからプログラミングぐらいやらないと、とパソコンを完全にゲーム機化させてしまうことになんとなく引け目があった。ベーマガはそんなニーズにちょうど合致した雑誌だった。その頃もっと熱心にやっていた人たちは、教わらなくても自分でどんどん学んでスキルを身につけていたし、そんな人たちは会社に入る頃にはすでにかなりのスキルを持っていたことだろう。
アマチュアのコミュニティ形成というのは、ゲーム産業に限らず、どの分野でも共通の課題で、それがうまくいっているかどうかにその分野の繁栄がかかっていると言ってもよいと思う。スポーツはわかりやすい例で、野球やサッカーは地域のチームや学校の部活などから入って、導入から将来の目標となるプロチームまでの流れがある。特にサッカーは意図的にアマチュア層の形成につながるような体制作りを行ったおかげで、比較的短期間でプロスポーツとしての基盤が確立されたと聞く。そのような体制作りのできないスポーツとの差は大きい。
マスメディアの分野でも、新聞部で学校新聞を作ったり、放送部で番組制作したり、小説を書いて雑誌に投稿したり、好きなラジオ番組に投稿する「ハガキ職人」になったりと、産業規模が大きくなった分野には、何らかの形で身近に参加できるアマチュア活動のきっかけがあった。一時は大きく育ったものの、時代の流れで衰退したものもある。
その分野でアマチュアコミュニティ形成の軸として機能するものははそれぞれ異なるし、適する手法も時代によって変わってくる。ゲーム産業にとっての昔のベーマガのように、産業の発達によって同じものが機能しなくなるものもある。人材育成というと、すぐに教育機関の整備や研修制度の充実のような「どうやって教えるか」という話に落とされがちだが、もう少し人材の流れを広く捉えて、その分野に関心を持つきっかけからプロとして活躍するまでの一連の流れを見直す作業が必要かもしれない。