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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第67号)

発行日:平成17年7月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 「名」 は 「体」 を 表 す −「看板」を変えれば、「中身と方法」が変わる−

2. 試案:異年齢集団のオリエンティールング

3. − 学 校 か ら の 便 り − 「型の指導」(世阿弥)と「訓練された無能力」(ヴェブレン)

4. 第58回生涯学習フォーラム報告

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

★★★ お知らせ   第59回生涯学習フォーラム ★★★

 フォーラム実行委員会では第25回中国・四国・九州地区生涯学習実践研究交流会を期して記念出版を行うため編集の準備を開始しています。そのため当分の間、各地の事例発表のお招きはお休みとし、代わりに、過去の「交流会」の発表の中から注目すべき事例を選び、その意義と内容・方法を実行委員の持ち回りによりそれぞれが小論文の形にまとめて発表する形式を取って参りました。この度、構想のあらましがまとまりましたので中間の発表の形で全体をお示しし、皆様の評価・ご意見を頂きたいと思います。

日時: 平成17年8月20日(土)15時-17時、
     のち「センターレストラン『そよかぜ』にて夕食会」
場所: 福岡県立社会教育総合センター
報告者及びテーマ: 三浦清一郎:「生涯学習立国の論理と方法(仮)」 −出版計画の構成と展望−

フォーラム終了後センターレストランにて「夕食会」を企画しています。ふるってご参加下さい。準備の関係上、事前参加申込みをお願い致します。(担当:恵良)092ー947ー3511まで。


編集後記 古い友だちと「走り」の意義

  夜中に誰かが肩を叩く。うるさいなと思って寝返りを打つとまた同じように肩を叩く。めったにない事であるが、一緒に寝ている犬のカイザーである。ベッドから飛び下りて、ドアのところへ行き、外へ行きたいという仕草をする。時計は午前1時を廻ったところで猛烈に眠い。しかし、明らかに様子が切迫しているので仕方なく、自分の手洗いもかねて付き合う事にした。具合が悪かったのであろう!表へ飛び出したカイザーは草むらの中でゲエッといって何かを吐いた。彼が妻を起こさずに私を起こしたのは普段からの付き合いを犬が知っていたという事である。夜中の肩たたきには明白な意味があったのである。昔、幼かった息子も同じように私を起こしたものであった。私の方が明らかに寝起きがいいのである。犬もそれを知っているのであろう。お互いの意志の疎通に驚きながら、あらためて人間が犬と友だちになってから何万年がたったろうか、と感慨深いものがあった。
  ところで私の英語ボランティアのクラスはもっぱら「文型」の指導に終始している。方法は教材の音読/暗唱から始める。続いてあらゆる角度からの「和文英訳」−「英語問答」、最後は、一人一人が「英語によるストーリーテリング」を行なう。「物語の素材」は生徒さんがそれぞれの興味で選択してくる。それゆえ、生徒さんの個性の数だけ多様な教材が集まって面白い。先週はあるスポーツマンの男性が「人間の走る能力」の意義に付いてのアメリカの科学者による新しい分析視点を紹介してくれた。
  その説によると「走る能力」は人間の進化の過程で重要な役割を果たして来たという。にもかかわらず、人々はその重要性を十分に認識していなかった。多くの専門家ですらも人間の「走る意味」を見過ごして来た背景には、「走るスピード」と「走れる距離」を分離して分析する視点を欠いていたからであるという。確かに「スピード」に関する限り、人間より早く走れる動物は沢山いる。馬や鹿はその一例である。それゆえ、「走りのスピード」に関しては、人間の能力も際立ったものではないのである。
  しかし、問題の核心は走り続ける耐久性と「走る距離」にあった。人間に与えられた長距離ランナーの資質は人間の生存を可能にして来た一大要因なのである。人間はチンパンジーやゴリラのような他の霊長類と比較しても「走り」に適した身体構造を有している。相対的に長い脚、安定した平らな足、効率的で、走るエネルギーを節約出来る足の筋肉の構成。また、走りのバランスを保つ上で効果的な細いウェスト、幅広い肩とその上に乗っている小さな頭。これらは総て走りに適した構造なのだという。かくして、人間は自分よりスピードの速い獣でも執念深く追い詰め、獲物がヘトヘトになったところで最終的には狩りに成功する。「走る能力」は、日々の食物の確保を可能にし、結果的に、栄養価の高い食物を得て、ホモ・サピエンスは強く進化したのである。生存競争に生き残る事を可能にしたのはヒトに備わった走りの能力のゆえであるという説であった。
  今では人間の「走り」は、健康やスポーツの一部としか考えられない。したがって、走りの能力が人間の生存を支えたという発想は、クラスの誰もが考えたことのない「視点」であった。私たちは英語の練習を通して、新しい「進化の視点」を学んだ。かつて文明以前の原始の時代にあっては、生存の最重要機能の一つであった「走り」について学んだのであった。この時、人間にカイザーのような嗅覚の優れた友だちがいて、正確な意志の疎通ができて、獲物の追跡を助けてくれたならば、狩りの成功率はますます高まったであろう。今夜は7月の満月、人々の寝静まった夜半に眠い目をこすりながら出て行ったきりのカイザーの帰りを待っている。


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(代表) 三浦清一郎 E-mail:  kazenotayori@anotherway.jp

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