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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第91号)

発行日:平成19年7月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. ふたたび朗唱発表会を見た!−新たな教育実践を始めるにあたって−

2. ふたたび朗唱発表会を見た!−新たな教育実践を始めるにあたって− (続き)

3. 「祭り」の思想を発明する-佐賀市立勧興公民館のまちづくり実験-

4. 熟年トレーニングの処方と評価

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

 


■■■■■ 編集後記  ■■■■■

今回はぎりぎりまで原稿が書けませんでした。Writer's Blockが起こったのでしょうか?書けない状況から逃げるために庭の手入れに精を出したので,真夏の花々がきれいに咲いています。また,感想のたぐいは書き続けていたので編集後記が3つになりました。

「死の歌3首」

  我家は高台に立っています。道から5メートル,さらに下の田んぼから5メートルくらいでしょうか。崖の下にはやや離れて農家が2軒あって,その向こうが釣川,さらにその向こうは城山の麓まで一面の水田です。田植えが終わり梅雨を経て今は青嵐の季節となりました。月夜には何百、何千の蛙が鳴きます。その声はまさに天にこだまするようです。
  今朝は犬達が目覚める前に一人で目が覚めました。蛙の声が遠く近く聞こえていました。
  なぜか斎藤茂吉の歌を3首思い出しました。

  死に近き母に添い寝のしんしんと
  遠田のかわず天に聞こゆる

  喉赤きつばくらめ二つ梁にいて
  垂乳根の母は死にたもうなり

  めんどりら砂浴びいたりひっそりと
  剃刀研ぎは過ぎ行きにけり

  高校時代の暗唱・素読のおかげで今も忘れずに覚えています。これらの歌がなければ「死」を思うよすががなかったことでしょう。

「節約のその先」

  我家は「節約」の実践を怠ったことはありません。幼い頃からしつけられた通り,妻も私も「節約行動」はすでに「習い」「性」となっています。私は明治生まれの父に,妻は大恐慌時代を生きた彼女の母のトレーニングを受けています。食事の残り物は必ずビニール袋に入れて持ち帰ります。プールの帰りに閉店間際の値引きの惣菜を買うことなどは子ども達にも教えました。妻も私も化粧品や装飾品のたぐいはほとんど何も買ったことがありません。古くなっても使えるものは最後まで使うようにしています。身の回りのものは最小限にしています。我らの日常は疑いなく「シンプルライフ」だと思います。
  先日,ふと気づいて貧乏性の節約習慣のその先はそうなるのだろうか,という話になりました。子ども達は独立し,終身保険に入り,葬式などに特別のこだわりもありません。子孫に「美田」を残すつもりもありません。だったら,いつも気にして生きている「節約」の結果をどうするのか,という具体的な疑問が起こったからです。
  折からちょうど新潟、柏崎の地震が起こり,被災地のニュースが連日報道されました。
  テレビを見ながら私たちは一つの結論に達したのです。節約金は地震のような非常時の際の「避難暮らし」に使おう、ということになりました。報道にある通り体育館に避難したみなさんも、公民館のみなさんも疲労困憊の様子は歴然としています。エコノミー症候群も頻発しているとのことでした。あの不自由と不便の中では、日々寝起きするだけで年寄りにはこたえることでしょう。外国人の妻が非常時の日本文化に気兼ねしながら生きることも並みの苦労では済まないであろうと思いました。
  直下型地震が起こったら、非常用の乾パンとか水とか懐中電灯とか常識的な準備は全部捨て,炊き出しも,救援物資も,ボランティアの助けもすべて遠慮して、とにかく熊本か,大分のビジネスホテルに避難しよう。節約金はそのための備えである、ということで納得したのです。家の中に思い出の品もこだわりの品もそれぞれにありますが,すべて置いて行くことにしました。思い出も,こだわりもとり返すことは可能です。留守中の盗難なども気にはなりますが、未来を生き抜くためには,日本の治安を信じて一刻も早く被災地を離れることが重要です。老いた自分達の力で「無謀な我慢」や「かなわぬ戦」はしないことに決めました。我々の「貧乏性の節約習慣」は「避難所の貧困」を回避するためであることを確認したのです。我が節約は単なる「ケチ」ではないのか,という「ためらい」に自分なりの答えを出してすっきりしたところです。これからもせいぜい貧乏性の節約習慣を守り抜きたいと思っているところです。

「ミスキャスト」

  安倍内閣の閣僚の不祥事が続いています。テレビ報道を聞きながら,"安倍総理もミスキャストが多くて気の毒に,,,。同志を選ぶというのは難しいのだろう",と感想を漏らしました。すかさず横合いから"ミスキャストの間違いはあなた程じゃないわよ"とチャチャが入って思わずぎゃふんとなりました。思えば自分の大学経営もミスキャストだらけでした。自分が幹部の人選と配置を間違ったために出来る筈のことも出来なくなったことは数知れません。起こらなくても良い面倒も次々と起こりました。
  今、孤独な研究者に戻って,ミスキャストの心配から免れた分だけどれだけ気が楽になっているでしょうか!!あらゆることが自己判断・自己責任の自営業になりました。共同者のいないひとりぼっちの自由業でもあります。原稿が書けないだけで立ち往生しますが,ミスキャストの不幸からは免れることができました。ありがたいことと思わねばならないでしょう。
  過日、突然,長年の友人が来訪して、会社が倒産したという顛末を聞きました。経営部門の一つで部下が不正を行い,経営の持続が出来なくなり、新規事業に投入した借入金の返済も不可能になったとのことでした。聞けば一つのプロジェクトの責任者に任命した部下の単純な脳細胞の,単純な慾の,単純な不正の結果でした。やはり当人を信用して組織に雇い入れた友人に責任があるのでしょうが,彼のまっすぐな気性を知っているだけに何ともやりきれない思いにとらわれました。やはり人間の隠れた性格や慾は見抜けないものなのでしょう。運命は時に酷いものです。たった一人のミスキャストで、30年来営々と築いてきた信用も資産も事業もほんの数日で無に帰したのです。すべてを手放して,以後家族もバラバラに暮らさねばならないということでした。
  私たちが差し出した心づくしの餞別を目の上に押し頂き,彼は涙を拭いて、しばしの旅に出ます,と言って去って行きました。傷心の旅になるでしょうが,誰も代わりには生きられないのです。30年近くの付き合いですから、彼もすでに年老いています。果たして彼の再起はあるのか,暗澹たる気持ちにならざるを得ませんでした。
  「やれるだけやってみます」という彼の後ろ姿を見送りながら、せめて次の出版は彼の再起に捧げようと思いました。今頃気づくのは遅いのですが、人間の運命は「他者」次第なのですね。


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(代表) 三浦清一郎 E-mail:  kazenotayori (@) anotherway.jp

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