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風の便り

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生涯学習通信

「風の便り」(第110号)

発行日:平成21年2月

発行者:「風の便り」編集委員会


1. 生涯学習事業編成の視点の変化 

2. 司会者の目線-インタビュー・ダイアローグへの抗議

3. 司会者の目線-インタビュー・ダイアローグへの抗議(続き)

4. 子どもに貢献の志、生きる姿勢を教える -教育公害を予防するために-

5. MESSAGE TO AND FROM

6. お知らせ&編集後記

2  生きる力は色々あるか!?具体的な答はないか?

 あなたの意見をお聞きしたいのです。
討議の一つの山場は「生きる力」が話題になった時でした。「地域ぐるみ」で子どもを育てるとして、子どもの何を育てるのか。それは「生きる力」だと言うことになりかけました。インタビューダイアローグはようやく佳境に入ると思われました。ところが「生きる力」の要因分析や生きる力とは具体的に何かを論ずる方向に議論は進みませんでした。登壇者が遠慮されて自説を展開しなかったからです。それぞれに思うところがおありだった筈ですが、現代は「個」を尊重し、価値の多様性を認めよ、という主張の時代ですから、遠慮して自説をお出しにならなかったのであろうと想像しています。しかし「生きる力」の中身こそが、問題の核心であり、方法論の核心です。登壇者は、『それぞれに見方があるだろう」というご発言に終始しました。色々やっているうちに自ずと答が出るという指摘が繰り返されました。
司会者としては、あなたの意見をお聞きしたいのです、と言いたいところでした。『みんなが気付くまで悠長なことをやっている暇はない』、とのど元まででかかりましたが、そこを我慢してお尋ねの方向を工夫するのが役目です。結局、「生きる力」についての具体的な答は出ませんでした。現代人の発言は総じて"用心深く"なっています。時に"臆病"です。シンポジュームの壇上では両方とも「逃げ」になります。参加者は、共通の答を聞きに来ていらっしゃっているわけではありません。それゆえ、個人の見解で良いのです。しかし、それが出ませんでした。
 「生きる力」とは
司会の答は簡単です。「生きる力」とは、踏ん張ってやり抜く体力、我慢して辛抱する耐性、高度文明社会を生き抜く学力、社会の共同を生き抜く規範意識、最後はやさしい思いやり、の総合です。これらを下から順に鍛えて行けば良いのです。聴衆に遠慮し、時に反発を恐れ、時に世間の価値の多様化傾向を先取りして対立を回避し、「みんなそれぞれ」、「時と場合でいろいろ」、「価値は多様である」と機嫌を取り、当たり障りのないように一般論、常識論を構えて確執を避けるのです。討議が面白くなる筈がないではないですか!!「生きる力」は色々あって、人それぞれで、具体的な答は言いたくないというのであれば、討議は退屈で、日本の教育は進化しないのです。

3  子育て支援の発想が貧しい

 女性を支援し、子どもの成長と発達を支援するそれこそが子育て支援です。子どもの安全や健康は前提条件.見守りを含め、出来るところからやる、という程度では今の少子化防止には間に合いません。今大会の事例発表の中にさまざまな子育て支援のモデル事業があるのに討議でなぜ評価の対象にしなかったのか?これもその通りです。司会者も抗議者と同意見です。討議が空回りするのは、現場の実践と評論が遊離しているからです。

4  どこででも生きよ

 若松元協育長さんの指摘の通り「ふるさと教育」は大切です。しかしその先がありませんでした。Think global, act local!のスローガン通りふるさとを学んだあとは世界を学ばなければなりません。子どものふるさとは大事だけれど、同時に、子どものふるさとを固定するな、とも思いました。国際化の時代、世界企業の時代、「地球は一つ」の合い言葉の下に地球環境を守らなければならない時代です。ふるさとを出て、たくましくどこででも生きよ、と言わなくていいのでしょうか?。他者に尽くしてがんばればそこがふるさとになる。後から考えても遅いのですが、そういう討議もしたかったですね。司会者の「水路付け」の失敗でした。お許し下さい。

5  具体的に実践を語れ!
 
 筆者は大会の総括の役目を負っていたので、大会初日の全事例発表会場を回りました。事例発表ですから「やったこと」、「具体的な方法と成果」が中心課題です。
 「地域ぐるみの子育て」がテーマにするのであれば、それを現在、実際にやっている人を登壇させなければ、具体的に実践の中身と方法を語ることは出来ないのです。抗議者のご不満が、インタビュー・ダイアローグにおける「具体性」の欠如、「実践性」の欠如であったとすれば、テーマに関連した事業の実践者:事例発表者の中から登壇者を選考するべきだったのです。
 しかし、ものごとは多面的に見るべきところもあるのではないでしょうか?今回のようなダイアローグには「ひょうたんからこま」のようなハップニングがつきものです。インタビューが掲げたテーマに肉薄していないというご批判は甘んじてお受けしますが、若松元教育長の学校を地域文化の中核に位置付け、学校の統廃合を抑制して、過疎に対応し、学校コミュニティをこそ育てるべきであるとの発想には、地方分権の中核論議の種がまかれていたと拝聴しました。政治評論家による基調講演の選挙談義や永田町解説よりよほど「地方分権」テーマの核心を突いていたと思います。また、長尾前校長先生の学校における「規律と秩序論」、地域と学校をつなぐ「学校開放論」には、現代の学校の病いの核心を突く提案が含まれていたと思いました。また、「弱いものから鍛えよ」という指導者論は、家庭や地域の子ども活動に応用出きます。子ども集団から「へなへな」をなくすことが出来れば、教育効果は劇的に変わる筈です。山口ネットワークエコーの西山代表のネットワーク論はこれからの市民活動の方向を示唆しています。組織の事情によって、「主催事業」は出来なくても、ネットワークによって「地域に風を起こす」ことは出来るのです。本号「風の便り」冒頭小論の生涯学習企画の「視点の転換」で論じた通りです。最後に、坂本先生の家庭教育学級論は筆者がかねがね唱えて来た「子ども主体性論を繰り返して来た家庭教育学級こそが日本の家庭から教育力を奪いさった教育公害論の元凶である」ということにかさなっていると考えながら拝聴しました。体得を軽視した知識注入型の間違った子育て論こそ、保護者をより一層過保護にし、家庭の教育を弱体化した一因なのです。
 この種の討議は「旅」のハプニングと同じです。見方を変え、聞き方を変えれば、テーマから外れていても、見聞に値し、傾聴にふさわしいところがたくさんあるのです。抗議者のお叱りは正論であり、ごもっともですが、少しゆとりを持って、討議のストライクゾーン;テーマの間口を広げて聞いて下さるようお願いしようと考えたインタビュー・ダイアローグでした。
 


 

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