Game-LAT:ゲームと学習に関する研究開発グループを立ち上げました

※追記(1/27): この研究グループを統括する研究ユニットLudix Lab(ルディックスラボ)を設立しました。Ludix Labでの活動も順次お知らせします。
 このたび、ゲームと学習に関する研究開発グループ”Gameful Learning Assessment & Technologies(Game-LAT)”を立ち上げましたのでお知らせします。
 このグループは、先ごろ藤本が理事に就任した、NPO法人Educe Technologiesを活動母体としています。諸々準備中なため、ひとまずは当ブログで設立経緯や活動方針をお伝えします。
◆Game-LAT設立経緯:
 海外のシリアスゲームや教育系のゲーム研究分野の動向を見ていくと、すでに一つの市場として形成されていて、研究拠点が各大学で立ち上がり、専門の開発会社も数々起業しています。ゲーム研究で学位取得して活躍する研究者が増えており、シリアスゲーム系の国際会議がいくつも運営されていて、大いににぎわいを見せています。
 その背景には、政府系や非営利財団系の手厚い支援があるわけですが、日本国内でいきなりそのような恵まれた状況が訪れることはなかなか期待できません。その結果として、ゲームに可能性があると思っても、何かやりたいという関心があっても、一人一人が分断された状態では、なかなかモチベーションも続かないし、どこへ行ったら一緒にやれる仲間を見つけられるのかわからない、関心のある人同士がつながる機会はあまり多くない、という状況が何年も続いています。
 支援がないから活動できない、と言って動かなければいつまでたっても状況は変わらないわけで、不利な条件下でもやれることをやりながら力をつけていこう、若い人たちが希望をもってこの分野で研究を続けていくための道を創っていこう、海外に向けて日本の教育分野のゲーム研究の拠点として情報発信していこう、という趣旨で設立しました。
◆Game-LATの活動領域について:
 Gameful Learning Assessment & Technologiesという名称の通り、「ゲームフルな学び」に関するデザインはもとより、評価の枠組みや技術的な研究開発についても活動対象としています。
 デザインに焦点を当てているところは他にもあるので、それだけではなくて評価手法の開発や新しい技術の研究も柱としていこうという考えを名称に込めています。この「ゲームフルラーニング」という考え方がこれまでのエデュテインメントやシリアスゲームやゲーミフィケーションとどう違うのか、同じなのか、というところについては、あらためて少しずつ解説していきたいと思います。また、Educe Technologiesでご一緒している副代表理事の中原淳先生は、「プレイフルラーニング」という呼び方で、社会人の学びについて研究・実践されていますが、この「プレイフル」と「ゲームフル」についても、関心の重なる部分とベクトルの異なる部分があります。その辺りの話もまた別の機会にご紹介します。
◆Game-LATの活動内容:
 ではこのGame-LATとして何をやっていくのか、というところですが、当面の活動方針として、次の3点を軸として位置づけています。
1.ゲームと学習に関する研究を進める各種研究会の主催
 Game-LATの活動として、ゲームと学習に関する研究活動を行い、実践につながる知見を共有、発信していく機能として研究会を行います。一つ目の研究会として、ゲームベースド・ワークショップ(GBW)研究会を立ち上げて、教育ゲームデザイン、ゲーム教育、の研究や実践に取り組んでいる方々と活動中です。
 このGBW研究会は、「分野の異なるゲームを利用したワークショップのファシリテーターや研修講師が相互に学び合って知見を共有する場を創り、ゲームを利用した教育活動に関する実践知を捉え直し、理論的に整理・考察する」ことをテーマとしています。現在はコアメンバーとして参加していただいている皆さんと定期的に会合しながら知見の整理や企画を進めています。GBWのファシリテーション、プログラムデザイン、教育評価などのテーマに取り組み、活動が進むにつれて順次、公開ワークショップやセミナーを提供していく予定です。
 GBW研究会のほかにも、次のような研究会を順次展開していきたいと考えています。「この研究会やってほしい!」というリクエストや、協力したいのだけど、というご希望がございましたらご連絡ください。
Game-LAT_research.jpg
2.「ゲームベースド・ワークショップ」のライブハウス的な場の提供
 研究は研究として進めていくわけですが、ワークショップのような実践活動には、当然実践の場が必要です。そのため、Game-LATでは、ゲームを取り入れた教育・研修活動や、ゲームデザインワークショップのような実践活動を継続的に行う場を提供したいと考えています。
 当面は、可能なところから徐々に増やしていく感じですが、いずれは落語の寄席や音楽のライブハウスのように、「ここに来れば、いつも何か面白そうなゲームのワークショップをやっている、なんだか面白そうなものを作っている」という常設的な活動の場を作りたいと考えています。
 コンテンツ産業の各分野を見ていくと、市場が形成されて、その分野で人々が職を持って食べていけるようになっている分野には、必ず継続的な活動を促す場があります。物書きには週刊や月刊の雑誌があり、パフォーマーにはライブショーやコンサートのようなイベントがあり、芸能タレントにはテレビやラジオのような放送メディアで流される番組があり、といった具合に、実践しながら経験を積んで、腕を磨いていける機会が存在します。その機会の中で、エンジニアや運営スタッフのような役割の職業も提供されて、徐々にその分野で職を得て働くことのできる人の層が厚くなっていくことで産業を支える基盤ができていくという側面があります。
 教育分野でも、教師にとっては毎日学校で行われる授業がそのような経験を積む実践の場として機能しているところがあるわけですが、ワークショップデザイナーやワークショップパフォーマーにとってはどうかというと、まだそこまで行っていないのが現状だと思います。最初から人気ワークショップデザイナーにお客がついて興行として成立する、というようなことはなかなかないわけで、儲からなくても好きでやってる「ライブハウスのおやじさん」的な人が地道にその分野の支援を行いながら、才能ある人々が経験を積んでいって、どこかのタイミングでブレイクしていく、という要素が何らかの形で提供される必要があると見ています。
 そのような観点から、このGame-LATは、ゲームと学習に関わるコンテンツ開発やゲームベースドワークショップにおけるインディーズレーベル、小劇場のプロモーター的な役割で動いていこうと思います。資金も人もいない状況ですので、やれることは限られていますが、地道にコツコツ成果を積み上げていこうと思います。
 まず、この枠組みのテストケースとして、GBW研究会の若手研究者ユニットが「オリジナルな教育ゲームを作成するワークショップ」を開催します。詳細は下記をご参照ください。
「オリジナルな教育ゲームを作成するワークショップ」のご案内
http://bit.ly/Ryzits
3.ゲームと学習に関する研究開発に関するコンサルテーション
 新たに教育用ゲームの開発や、ゲームを利用した教育活動の評価など、ゲームと学習に関わる研究や開発を推進するプロジェクトを行います。オンライン教育でのゲームを取り入れた教材のデザインの監修や、開発プロジェクト成功のためのアドバイスを行います。これまでにも藤本が個人としてさまざまな案件の相談を受けてきましたが、個人での対応は限界があってお応えできないことも多かったので、今後はこのGame-LATを窓口としてお応えできる幅を広げられたらと思います。
 営利的なゲームの開発はいくらでも請け負う会社がありますので、そちらにお任せするとして、このGame-LATではゲームと学習に関する専門的な知見が求められる内容や、非営利、公共的なテーマのプロジェクトを形にするための機能を提供します。予算規模や実施主体のニーズによって、監修的な立場で関わったり、開発メンバーを集めたり、連携窓口となったり、予算確保のために協力したり、といった形でできる限りのご要望にお応えしたいと思います。

 以上のようなところが、このGame-LATの旗揚げ声明のようなものです。当座は資金も力もありませんが、誰かが始めないと何も面白いことは起こりませんし、米国のような状況を羨ましがっているばかりでは先に進みません。この分野の研究者として、手持ちのリソースでやれるところからこの分野を盛り上げていくための一手として、このGame-LATを立ち上げました。近い将来の「ゲームフルな学び」を軸とした活動があちこちで盛り上がる世界に向けた準備を進めていきたいと考えています。
 何か協力してほしい、こういうことを一緒にやれないか、といったお問い合わせがございましたら、以下のメールアドレス宛にご連絡ください。
gamelat2012 at gmail.com ( at を @に変えてください)
藤本 徹 (NPO法人Educe Technologies 理事)