「デジタルゲームベースド・ラーニング」翻訳完了

 マーク・プレンスキー著「Digital Game-based Learning」の翻訳がようやく終わり、出版に向けてこれから編集と校正作業に入る。
 この翻訳に着手したのは2006年の夏のこと。途中で出版する本の順番を変更して、昨年出した拙著「シリアスゲーム」と、プレンスキー氏の最新作の訳書「テレビゲーム教育論」の作業を先にやったこともあって、この本の作業は延び延びになっていたのだが、この夏に研究と並行して地道に作業を進めて、ようやく片付いた。


 本書は、2001年に出版され、今日の欧米でのシリアスゲームムーブメントの流れを作ることに貢献した。学習とゲームについて理論的な面や開発や導入の実践面について網羅的に論じていて、「シリアスゲーム入門ガイドブック」的な位置づけとなり、シリアスゲーム黎明期において本書が果たした役割はとても大きかった。今日も、大学でシリアスゲームや学習とゲームに関連する科目では基本文献として利用されている。
 本書が出版された2001年は、ゲーム業界はプレイステーション2が出たばかりの頃のこと。PS3の時代となった今日では、本書のゲームに関する記述は懐かしく感じられるところもあって、7年経った今読むとまた別の味わいがある。かたや教育業界は、「eラーニング」バブル全盛期の頃。当時上場したり羽振りが良かったりして有名だった企業の名前が出てくるところは懐かしい感じで読めるのだが、全般的な話はそれほど古くなっている感がなくて、今も変わらないよね、というところが多いのはまた別の意味で面白い。
 また、本書で紹介されている豊富な学習ゲームの事例は、欧米のシリアスゲームがこの頃より世代が一つ進んでいるような状況なので、今から見るとややレトロな感じの事例もある。一方で日本の学習ゲームは、まだ基本的にエデュテインメント時代から進んでいないところがあるので、そういう文脈で読むと、ほとんどの事例がまだ「賞味期限内」にあると言える。このほかにも面白いところや見所がたくさんあるので、訳書にはちょっとした解説を盛り込む予定。
 400ページ以上ある大著なので、翻訳作業はひたすら長かった。作業の過程で、訳した分と残りを比べながら、いつになったら終わるのかと途方に暮れた気持ちになることは何度もあった。そして先日、ようやく訳し終えて、作業の終わった全てのページをめくりながら、千里の道も一歩ずつ進んでいけば、いつか終わりが来るのだなと感慨深かった。
 こういう作業は地道な継続が大事なのと同時に、集中して一気に進める時期も必要だった。本当は去年の今頃には片付いているはずだったのに、あれやこれやと忙殺されている間に作業が遅れて今頃になってしまった。でも、これ以上延ばしたらもうこの作業に充てられる時間は一生取れなくなるので、これが最後のチャンスと思って無理やりに進めてなんとか片付いた。苦労した価値はあると思うし、本書を手にとってくださる人々がそう思ってくれればうれしい。
 出版時期は来年早々くらいになるのではないかと思います。決まったらまたご案内します。お楽しみに。