Ludix Lab公開研究会:「人を育てるゲームプラン」の組み立て方 開催のお知らせ

LudixLab公開研究会「「人を育てるゲームプラン」の組み立て方」を7月13日に東大本郷キャンパスで開催します。

今回は、ゲームの企画に携わる人材教育を題材として、ゲームプランナーの役割や、企画スキルを高める上での教育手法などについて掘り下げて議論するトークセッションです。

セガ、DeNAでゲームプロデューサーを歴任し、広くゲーム開発人材育成で活躍されている馬場保仁氏と、「ルールズ・オブ・プレイ」翻訳者で、大学や企業等でゲームデザイナー教育に長年取り組まれている山本貴光氏をスピーカーにお招きし、お二方の最近の取り組みから、ゲームの企画やゲームデザイン発想のできる人材を育てる「ゲームプラン」の考え方や組み立て方を議論します。

教育・人材育成の観点から、このお二方とプランナー育成について議論できる貴重な機会です。
私もお二人とは久しぶりのセッションですので、とても楽しみです。
優れたゲームの仕掛けや面白さを生み出す教育に関心のある方にぜひお勧めします。

※席がだいぶ少なくなってきましたので、参加ご希望の方はどうぞお早めにお申し込みください。
(ボランティア枠はすぐに売り切れました。)

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Ludix Lab公開研究会:「人を育てるゲームプラン」の組み立て方

★ゲスト講師:
馬場保仁氏(ゲームプロデューサー 兼 人材採用担当)
山本貴光氏(ゲーム作家・文筆家)

★モデレータ: 藤本 徹 (東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師)

★日時:2016年7月13日(水)19時30分~21時 (開場:19時10分、1ドリンク・軽食付)

★会場: 東京大学本郷キャンパス福武ラーニングスタジオ1(B2F)

★参加費: 一般前売: 3000円、当日4000円

参加申込・イベント詳細は下記をご参照ください:
http://ptix.co/1PyL5tD

誕生日の所感と近況

本日は誕生日でした。43歳になりました。
今年も健康に面白い仕事ができていることをありがたく感じています。
厳しい局面や盛り下がる場面にも多々直面しますが、その分今までとは異なるチャレンジも出てきて面白く、ねこあつめとBaby Metalに励まされながら健やかに毎日を過ごしております。

今年に入って、これまで以上に仕事上の役割や、研究コミュニティでの立ち位置など、変化していて、数年前とは異なる中堅的な視座で活動を捉えることが多くなってきました。

自分の馬力が落ちているせいでもありますが、自分独りでは手が回らない状況が増えてきました。いかに人の力を借りるか、連携してみんなで乗り切るか、ということを考えながら策を講じる日々です。以前から、自分でやらなくていいことはやらず、自分しかできなそうなもの、自分がやる方がましなものを自分がやるという方針で活動してきましたが、方針だけでなく具体的な体制に落とし込まないとこの先も厳しいなということをひしひし感じる毎日です。

現在は、年初に仕込んだ企画がいくつか佳境を迎えており、今はそれをしっかり仕上げることに専念しています。いずれも面白い成果につながるように心して取り組みます。

最近の成果として、先月、初めて電子書籍として出版した「入門 企業内ゲーム研修」はLudix Labフェロー各位との連携のおかげで形にできました。それともう一冊、この一年引っ張ってしまいましたが、編集を担当していた日本教育工学会の選書はようやく校正段階に入り、出版の見通しが立ちました。昨年開発したキャリア学習カードゲーム「ジョブスタ」は研修パッケージとしての商品化、英語版もリリースし、今年はオンライン版の開発に着手しています。東大で担当している海外向けMOOCは、これから順次公開するコースが続き、今年のピークを迎えています。他にもいくつか今年前に進めたいプロジェクトがあり、それらを夢中で進めていくうちに今年も過ぎていきそうです。

関わっているどのプロジェクトも、自分独りだけで成果を出せるものではなく、一緒に仕事する方々との活動をうまく進めることで何とか形にできているものばかりです。そのなかで自分の付加価値を出すための時間をしっかり取れるように、できるだけ余分なことを削って前に進んでいるような毎日です。

この歳になっても、1年前の自分ではできなかったことができるようになっていたり、気づかなかったことに気づいたりという実感は続いていて、それが毎日を生きる楽しさや生きづらさ軽減につながっているところがあるように思います。自分の性分のようなものは今更大きく変えることはできないにしても、その性分と付き合いつつ良い仕事を続けていくように日々を過ごしていければ良いかなと思います。

「財政健全化」をテーマにした日米シリアスゲーム比較

財務省ウェブサイトに掲載されているゲーム「財務大臣になって財政改革を進めよう」がネット上で話題になってますが、折しもちょうど先日、米国で同じテーマのシリアスゲームがリリースされました。日米のシリアスゲーム分野の現状を反映した面白い事例ですので、比較しつつそれぞれ紹介したいと思います。

「財務大臣になって財政改革を進めよう」
http://www.zaisei.mof.go.jp/game/yosansinario/
スクリーンショット 2016-05-01 18.07.22

「The Fiscal Ship」
http://fiscalship.org/

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まず、日本の財務省の「財務大臣になって財政改革を進めよう」は、ゲームとしての作りの甘さが目立つこともあり、ネット上でも批判や皮肉のコメントが多く見られます。実際、試しにプレイしてみると、社会保障費をざっくり削ればあっけなく目標達成できてしまい、その負の側面を感じることもなく、下記のゴール画面が出てゲーム終了します。

スクリーンショット 2016-05-01 15.51.55

社会保障費を削って地方公共投資や教育費を削っても、老いも若きも国民が皆喜ぶハッピーエンド画面になってしまうのですが、実はこの画面の暗さによって、「どの選択でも日本の未来はバッドエンド」ということを表現しているようにも感じられ、自虐ネタともプロパガンダとも取れてしまう、味わい深いパロディゲームテイストの不思議な存在感を放っています。

関連知識の補足として、時事的な題材をテーマに世論を喚起することを目的としたシリアスゲームとして、「ニュースゲーム」というサブカテゴリーがあります(wikipediaに英語版解説と事例が紹介されています)。この区分のゲームは、タイムリーさを重視していることもあり、時間をかけた大掛かりなものよりもインパクト重視の低予算ミニゲーム作品が多い傾向があります。この財務省のゲームも実際にはかなり低予算で短期間で開発されていることが推測されることから、図らずしてニュースゲーム的な社会風刺要素を持ったゲームを財務省が自ら提供しているという事例としての面白さがあります。

一方の「The Fiscal Ship」も、財政赤字に苦しむ米国連邦政府の財政健全化のための予算編成を行うゲームで、ゲームを通して国家財政の厳しさを伝えようとするねらいは日本の「財務大臣・・・」と同様です。諸政策の予算を増減させて影響を可視化するというところも共通しています。

しかし、このゲームをプレイしてみると、ゴールとして目指すビジョンの設定と、その実現のための個々の政策判断が財政へ与える影響が可視化されるところは、学習面とパズルゲームとしてのゲームバランス面を慎重に検討してデザインされていることがわかります(下記のプレイ方法説明ビデオは英語ですが、ご覧いただくと言葉がわからなくてもどんなゲームか大体理解できると思います)。

なお、この「The Fiscal Ship」は、非営利研究機関のWoodrow Wilson CenterのSerious Games Initiativeと、Brookings Instituteの財政金融政策の研究センターであるHutchins Center によって開発されました。ピーターソン財団、ヒューレット財団などの支援を受けており、ゲーム開発会社の1st Playable Productionsがゲーム開発を担当しています。Serious Games Initiativeは2000年代前半からのシリアスゲームの展開に大きく貢献してきたプロジェクトです。シリアスゲーム分野では著名なBen Sawyerがプロデューサーとして開発に参加しています。

ゲームの学習要素を比較すると、「財務大臣になって財政改革を進めよう」では、公務員削減や省庁機能の縮小のような提供者側に不都合な選択肢が存在せず、社会保障費、教育費、防衛費といった大枠の予算項目の判断しかできないのに対し、この「The Fiscal Ship」には「コミュニティカレッジ授業料の無償化」、「オバマケア削減」などの現政権が推進している政策や、「教育省の廃止」や「公務員年金の削減」のような公的サービスや公務員の待遇悪化も選択肢に含まれています。

提供者側に不都合な判断も「ゲームだから」試せて、それらの選択が財政的には実際にどれくらいインパクトがあるかイメージできるようになっています。そして個々の政策が思ったより財政面でのインパクトが大きくなかったり、実は意外と大きかったりすることを興味を持って学べる構成になっています。

いずれも同じ財政健全化をテーマとして、予算編成の判断による財政への影響を可視化するという作りでありながら、ゲームプレイから得られる知識や新たな知見の違いが大きく、残念ながらシリアスゲームとして出来の違いは明らかです。

日本の財務省のゲームは、財務省が自ら提供しているという時点で、どんなにすごいゲームを作ったとしても「国民の税金使って何やってんのか」的な批判は避けられない上、予算の制約や多方面への「政治的適切さ」を配慮することが求められれば、真面目にやるにはかなりつらいプロジェクトだろうということが想像されます。

単に海外が進んでいて日本が遅れているという話ではなく、良い事例も、失敗事例も国内外に山のように存在します。せっかくコストをかけて取り組むのですから、過去の事例に学んで、きちんと開発できる体制を作って、成果の出せるプロジェクトとして取り組まないと、いつまでたってもこの分野が進展しないので、改めて何か状況打開のための手を打っていく必要性を感じた次第です。

Ludix Lab編 「入門 企業内ゲーム研修」 4月9日発売

Ludix Lab編集の電子書籍「入門 企業内ゲーム研修」の予約販売ページがオープンしました。4月9日から発売です。

本書はLudix Labで実施したセミナーの内容をもとに、昨年かなりの時間をかけてメンバーで編集活動を続けてきた成果です。少しずつ作業を進めてきて、ようやく世に送り出せるようになりました。限られた時間でしたので、まずは形にすることを優先して作業してきましたが、最終製品にするのは手間がかかります。

本書はAmazon Kindle版の電子書籍です。書店には並びませんが、Kindle端末がなくてもKindleアプリを入れればどの端末でも利用できます。

(この業界に明るい方は、タイトルや表紙デザインが似た書籍があるなとお感じになるかもしれませんが、それはたまたまです。)

下記のような内容で、この分野に興味のある方に向けた入門ガイドとして執筆しました。

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「入門 企業内ゲーム研修」

目次(節は抜粋)
第一章:最も質問が多いゲーム研修の効果測定
・まずは用語をきちんとつかむことからはじめよう!
・研修における「効果」の捉え方は各人各様
第二章:効果測定の考え方
・ゲーム研修に特別な効果測定手法は必要?
・自ら体験したことは講義と比べて定着しやすいのか?
・「気づき」は実は測定できる
第三章:ゲームの強み
・経験学習ができるという強み
・ゲーム研修の比較対象は講義ではなくOJT
・具体的な状況で転移させる力を向上させる
・講義だけでは1週間後に20%しか思い出せない
第四章:振り返りを促すファシリテーション
・振り返りをして効果を高める
・大人だって「どう考えるか」は習ってないし、わかっていない
・楽しさは研修の目的ではない
・ファシリテーターがいないと学べない?
第五章:研修企画を通す教育学:導入のための説得ツール
・3つの知識の種類~何を学ぶかをまず理解しよう~
・「門前の小僧」はどうやって学んでいるか?
・教育学の言葉が分かれば研修企画の武器になる!?
第六章:「ゲームと学び」についての3つの誤解
・ゲームの学習効果は学術的に実証されている
・ゲームの要素を使うと研修がこう変わる
・ゲームは長所ばかりではない?
第七章:ビジネスゲームってどんなものなの?
・ゲームと学びの変遷と用語の整理
・ゲーミフィケーションはゲームではない!?
・ゲームとシミュレーションってどう違う?

■編著者紹介
Ludix Labは、教育の活動をしているNPO法人「Educe Technologies」のゲームと学習に関する研究ユニットとして2013年に設立。本書はLudix Lab代表と4名のフェローで編集した。
・池尻良平:東京大学情報学環特任助教、Ludix Labフェロー
専門は「学習の転移」。特に、歴史を現代の社会的な問題に応用させることを研究。高校生に歴史の有用性を実感してもらうゲーム教材を使った歴史の授業もし ている。また、企業研修向けのゲーム研修の教材も共同開発している。共著に「歴史を射つ: 言語論的転回・文化史・パブリックヒストリー・ナショナルヒストリー」(御茶の水書房)
・高橋興史:カレイドソリューションズ株式会社代表取締役、Ludix Labフェロー
起業家。アナログゲームの知見や研修企画のノウハウを応用し、国内唯一の企業研修向けにゲームを使った研修内製化教材を提供する会社を創業。多くのビジネスマンが同社のゲームで経営や財務会計、コミュニケーションを学んでいる。
・為田裕行:フューチャーインスティテュート株式会社取締役、Ludix Labフェロー
ICT利用教育のコンサルティングや導入支援を行う。小中高校生向けに、ボードゲームを使って考える力を養う教育活動や、企業研修でのゲーム研修も行っている。
・藤本徹:東京大学 大学総合教育研究センター特任講師、Ludix Lab代表
教育にテクノロジーを活用する「教育工学」分野の研究者。特にゲームを利用した教育の研究をしており、日本でシリアスゲームの普及を進めてきた。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、訳書に「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。
・福山佑樹:東京大学教養学部特任助教、Ludix Labフェロー
専門は「教育工学」。特に現代社会の問題を経験学習するためのゲーム教材の開発と実践を行っている。これまで扱ったテーマには、環境問題・組織市民行動・キャリア教育などがあり、一部の開発物は企業研修でも使用されている。共著に「職場学習の探求」(生産性出版)

「ねこあつめ」のプレイ経験に関する国際ユーザー調査

先日来、「ねこあつめ」のユーザーコミュニティ研究を進めています(「ねこあつめ」 の面白さに研究意欲が刺激され、気が付いたら研究に着手していました)。

このたび、この研究の一環で、「ねこあつめ」の プレイ経験に関する国際ユーザー調査を開始しました。「ねこあつめ」をプレイ中の方、以前プレイしたことのある方が対象です。「ねこあつめ」ファンの皆さま、ぜひ調査にご協力ください。周囲にユーザーの方がいましたらシェアしてくださると嬉しいです。

「ねこあつめ」のプレイ経験に関する調査
https://jp.surveymonkey.com/r/nekoatsume

“Nekoatsume” user survey
 We are conducting a “Neko Atsume” user survey. Those who are playing or who have played Neko Atsume, please participate in the survey. Please share this info with your friends!!

https://jp.surveymonkey.com/r/nekoatsume

 

大学教育研究フォーラムにて講演「ゲームデザインの枠組みで大学教育を捉え直す」

 今週、3月17-18日に京都大学で開催される「第22回大学教育研究フォーラム」にて、「ゲームデザインの枠組みで大学教育を捉え直す:高等教育改善のためのゲーミフィケーション」と題して講演しますのでお知らせいたします。大会2日目、18日(金)の11:25~12:25の小講演2の枠です。
 このセッションにご参加くださる皆さんに、「ゲーム」について理解を深め、大学教育を今までとは異なるレンズを通して観るための機会をお届けしたいと思います。

 

着任のご報告

本日3月1日、東京大学 大学総合教育研究センター全学教育推進部門の特任講師に着任しましたのでご報告いたします。勤務先は同じで担当業務も変わりませんが、正式にグローバルMOOCの担当のポストに就いた形になります。

東京大学のグローバルMOOCは、これから今年度分の新規開講が控えており、来年度の企画も進行中です。これからさらに、海外に向けて戦略的に独自色の強い取り組みで成果を出したいと思います。

研究活動は、MOOCと共に、引き続き研究ユニットのLudix Labをベースとしてゲーム学習論を中心に取り組んでいきます。今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。

DiGRA JAPAN年次大会にて発表:「ねこあつめ」のアフィニティスペース

もう前日になってしまいましたが、2月27日・28日に芝浦工業大学大宮キャンパスで開催される日本デジタルゲーム学会第7回年次大会の二日目午後のセッションで、「『ねこあつめ』のアフィニティスペース」と題した研究発表を行います。

ゲームのプレイヤーコミュニティの研究は何度かやりましたが、だいぶ久しぶりです。前のブログ記事を見返したら、A Tale in the Desertのプレイヤーコミュニティの調査をやったのが2005年頃ですからもう10年以上前ですね。

オンラインゲームと学習の接点

その時国際会議で発表した論文です。

Fujimoto, T. (2005). Social Interactions Experienced in the Massively Multiplayer Online Game Environment: Implications in the Design of Online Learning Courses. presented at the AECT annual conference. Orlando, FL.

この手のプレイヤーコミュニティの研究は、なかなか研究成果としてまとめるのが難しいのですが、「ねこあつめ」のプレイヤーコミュニティの面白さに引き寄せられるように一歩踏み出していました。当初想定していた以上にコミュニティが奥深いものがあり、資料も膨大でまだ途中経過の報告ですが、引き続き取り組んで良い成果を出したいと思います。

東北大グループの「長時間のゲームプレイの子どもへの影響」論文へのコメント

東北大学の竹内光准教授・川島隆太教授らの研究グループの、小児における長時間のビデオゲームプレイ習慣が言語知能の低下など悪影響を及ぼすことを発見した、という「Molecular Psychiatry」に掲載された下記の論文が話題になっています。この手の研究が出るたびに、ゲーム業界団体は何か適切なアクションを起こした方が良いのではと思いますが、このまま放置しておくとゲームの悪いイメージだけが無用に広がりそうなので、少しコメントしたいと思います(私は脳科学や発達心理の専門ではないので、その点ご留意ください)。

Impact of videogame play on the brain’s microstructural properties: cross-sectional and longitudinal analyses(Molecular Psychiatryに掲載された当該論文)
http://www.nature.com/mp/journal/vaop/ncurrent/full/mp2015193a.html

長時間のビデオゲームが小児の広汎な脳領域の発達や言語性知能に及ぼす悪影響を発見~発達期の小児の長時間のビデオゲームプレイには一層のケアを喚起~(東北大学プレスリリース:2015年1月5日)
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160105_01web.pdf

1.まず、この研究の一般に向けた示唆としては、ゲームに限らず「何ごとも子どもに過度に与え過ぎるのはよくない」という一般論で理解されていることを科学的に実証しているだけですので、この結果が出たからといって現状以上にゲームを問題視する必要はないと思います。

ゲームも子どもの娯楽や趣味の一つであり、よく付き合えばゲームから得られる効果も大きいことはこれまでの多くの研究で示されています(この論文でも、ゲームの効用についての先行研究を認めた上で議論しています)。避けるべきなのは、この研究の報道を見た親や教師たちが必要以上に警戒して(または都合の良いように解釈して)、適度な時間で楽しんでいる子どもからゲームを取り上げて禁止するような家庭や学校が出ることです。子どもにも個人差があり、はまり易い子どもとそうでない子どもがいるので、はまり易く長時間遊んでしまいがちな子どもに対して、この結果をもとにプレイ時間のルールを決めたり、少し生活習慣への配慮をするくらいでよいと思います。

2.論文中でも制約事項として言及されていますが、この研究の「ビデオゲームのプレイ時間」というのは、質問紙調査で平日のプレイ時間数がどれくらいかを確認したもので、被験者の子どもたちがどんなゲームをどのようにプレイしたのかまでは明らかになっていません。また、長時間ゲームで遊ぶ子どもに共通する家庭環境や生活習慣などの他の主要因の影響が、この研究で調べた「ビデオゲームのプレイ時間」の影響として現れている可能性は、この研究では否定できません。

この研究で扱っているのは、言語性知能への影響なので、同じゲームを長い間プレイすることで、会話の量や言語情報の多様性が低下した結果というのは想像できます。実際、同じ研究グループで、2年前にテレビの長時間視聴について下記のように同様の研究結果を発表しています。テレビ視聴やゲームプレイそのものより、家族や周囲が子どもを放置していることで、会話や言語的なインタラクションが少ない時間が長くなっていることの影響の方が大きいように思います。

長時間テレビ視聴が小児の高次認知脳領域の発達性変化や言語性知能に悪影響を与えることを発見~発達期の小児の長時間のTV視聴には一層のケアを喚起~(東北大学プレスリリース:2013年11月18日)
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press_20131118_02web.pdf

3.この論文は、脳科学の研究者が適切な手続きで行い、経時変化も測定した実験結果であり、以前物議を醸した「ゲーム脳の恐怖」の恣意的なゲーム悪影響論よりはずっとまともなので、そこは一緒くたにして否定してしまうのは少々気の毒です。

ただ、「ドーパミン作動系領域の拡散性の増大は、メタアンフェタミンの長期ユーザーでも見られる特徴で、ビデオゲーム長時間プレイ者での相同の神経改変を疑わせました」というところは、他の活動との比較などで細かい度合いまで確認できたわけではないのに覚せい剤中毒患者を引き合いに出すのは言い過ぎではないかという気はします(ゲーム脳本がアルツハイマーを引き合いに出して恐怖心を煽ったのと同じ臭いがします)。

4.最後に、これはこの論文よりもそれを報道する側に対してですが、この論文はあくまで「長時間のゲームプレイ」の影響についての研究結果であって、これをもって周囲が勝手な解釈をして、安易にゲーム全般を否定するような捉え方をすべきでないことです。

この点は、一部専門ゲームメディアで「ゲームは子どもに悪影響」という記述をしている記事がありますが、これはこの論文そのものよりもゲーム産業にとって害のある報道で、このような取り上げ方は慎むべきです。他の一般ニュースメディアは概ねプレスリリースに沿って適切に記述しているにもかかわらず、ゲーム専門メディア側がこのようなゲームそのものを否定的にとられるような表現で報道するのは配慮がなさすぎるし、意図的にゲームファンの反発を集めて物議をかもそうとしているのであれば、ゲームジャーナリズム全体を貶めることにもつながるのですぐに訂正した方が良いと思います。

むしろ問題視すべきは、このような研究結果をもとに、ゲーム全般を違法薬物やギャンブルなどと同列に扱って社会的スティグマを押し付けようとする動きや、教育行政や保護者団体などがこの結果を拡大解釈してゲーム排斥に走る動きなど、以前のゲーム脳騒動のような風評被害につながることであり、そのような動きこそ警戒が必要と思います。

以上、ざっと論文を参照して気が付いた点をコメントしました。まだ見落としている論点があるかもしれませんが、いったんここまでとして自分の研究に戻ります。

2015年のMOOCの動向を振り返る

edSurgeに「MOOCs in 2015: Breaking Down the Numbers」という2015年のMOOC動向のまとめ記事が出ていましたので、この記事をもとに、日本語で少し解説を加えて紹介します。

2015年は、当初のMOOCへの関心の過熱ぶりはひと段落した感がある中、利用者の拡大や教育システムとしての普及に向けた取り組みが着実に進展している様子が示されています。

MOOC情報サイトのClass Centralのデータをもとに、以下のような点がコメントされています。

・MOOC登録者数は約3500万人にのぼり、2014年の約1700万人からほぼ倍増。Coursera(約1700万人)がMOOCプラットフォーム登録者数の半数近くとなっており、英国のFutureLearnが2014年の80万人から300万人に大きく伸びている。

・550以上の大学・機関から約4200コースが提供されており、2015年中に新規開講がアナウンスされたのは1800コース。

・コース内容は、キャリアアップにつながりやすいICTスキルやビジネススキル系のコースが増加し、人文社会科学系のコースが減少したが、バランスよく幅広い分野のコース提供が行われている。

・プロバイダーの新規参入は、アート系教育に特化したMOOCプラットフォームのKadenzeのみ。提供コース数の割合ではCoursera, edX, Canvasの順で、昨年と同様の傾向。

・提供コースの言語は、昨年と同じく英語が最大でスペイン語、フランス語が続く。ローカルMOOCのコース数増や、英語で提供中のコースの多言語化が進んでおり、16か国語で提供されている。

・2015年中に開講された新規2200コースのうち、Class Centralのユーザーレビューで評価が特に高かった上位のコースは以下の通り。有名大学ばかりでなく、テーマも幅広いです。

  1. A Life of Happiness and Fulfillment (Indian School of Business & Coursera)
  2. Introduction to Programming with MATLAB (Vanderbilt University & Coursera)
  3. The Great Poems Series: Unbinding Prometheus (OpenLearning)
  4. Marketing in a Digital World (UIUC & Coursera)
  5. Fractals and Scaling (Santa Fe Institute & Complexity Explorer)
  6. What is a Mind? (University of Cape Town & FutureLearn)
  7. Algorithms for DNA Sequencing (Johns Hopkins University & Coursera)
  8. Mindfulness for Wellbeing and Peak Performance (Monash University & FutureLearn)
  9. Programming for Everybody: Getting Started with Python (University of Michigan & Coursera)
  10. CS100.1x: Introduction to Big Data with Apache Spark (UC Berkeley & edX)

・Class Centralのユーザーレビューの大学への評価ランキングは以下の通りです(5コース以上MOOCを提供している大学で集計)。

  1. Santa Fe Institute
  2. Monash University
  3. Case Western Reserve University
  4. San Jose State University
  5. Australian National University
  6. Yale University
  7. The University of North Carolina at Chapel Hill
  8. University of Melbourne
  9. University of Queensland
  10. Wharton School of the University of Pennsylvania

これらのランキングは、Class Centralのユーザー分布も影響している感がありますが、THEなどのトップ大学ランキングで見られるものとはだいぶ異なっています。

2015年のトレンドとして以下の点が挙げられています。

・ビジネスモデルとして修了証発行からの収入拡大が進展しており、複数コースをまとめたセット受講プログラムの開発が進み、100以上のプログラムが提供中。UdacityのNanodegrees、CourseraのSpecializations、edXのXseriesとして提供されている。

・edXは大学との単位互換を推進して、アリゾナ州立大のグローバルフレッシュマンアカデミーで初年次教育科目の単位が提供されるなどの動きが進展。

・無料のコース修了証(受講認定証)の発行が廃止され、Coursera、edXとも修了証発行は有料に。コース受講無料で、有料のオプションサービスの開発が進みつつある。

・常時開講コースへの移行が進み、800コース以上が常時開講でいつでも受講できるようになった。当初は大学の授業をモデルにして期間を区切った形で提供されていたが、初回のみで再開講の予定が公開されていないコースが半数以上出ているなど問題があり、運営モデル自体が変わりつつある。

・高校生向けのコース開発が進む。特にedXとFutureLearnで大学入学準備や試験対策などのコースが提供されるようになり、高大接続に貢献する学習支援ツールとしてのMOOC利用の可能性が示された。

・実験的にMOOCに取り組む段階からシフトして、国際的なオンライン教育プラットフォームとして定着に向けた動きが進展した1年で、具体的なビジネスモデルの確立や既存の教育システムとの連携に向けた試みが目立った。

2016年は継続性確立のため、各プロバイダーで有料サービス開発が進んで、無料で提供される学習の場はさらに限定的になるのではないかという予想で締めくくられています。

また、Times Higher Education に先日掲載された記事「Moocs: international credit transfer system edges closer」では、欧州、北米、オーストラリアの6つ大学が連携して、MOOCの単位互換システムを準備中であることが紹介されています。MOOC参加大学の国際会議の様子を見ると、このような動きは他にも出てきそうな気配で、今年はMOOCを軸とした国際的な大学連携が進展する動きも進みそうです。